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第七章 scene6 至福

ルカ

「サーヤ!こっちこっち!次はね――」

もはや引きずる勢いで、軽やかに先を走るルカ。


サーヤ

「ま、待って!覚える前に記憶が飛ぶ!」


ルカ

「慣れる慣れる!身体で覚えれば早いって!」


(体育会系~~~!!)



──まずは掃除。


客がまだいない廊下を素早く磨く。

「湯の匂い」と「清潔」の境界線。


ルカ

「床は“光らせるため”じゃなくて、“今日も温かく迎えますよ”って言いながら磨くの」


サーヤ

「名言きた……」



──次、客室案内。


ルカの声は不思議と柔らかい。


「こちらのお部屋になります。

窓を開けると湯けむりが見えますからね、

まずはおおきく呼吸をしてください。

“あ、ここに来たんだ”って。あ、でも吸い込みすぎるとむせちゃいますからね、お気をつけて」


ルカ、すごいわ。

サーヤの背筋が少し伸びた。


途中途中で、先輩メイドたちに挨拶。


「新人です!サーヤです!」

「よろしくお願いします!」


「お、かわいいの来たね」

「働きそうじゃない?」

「ルカ、雑に扱うなよ?」


サーヤ

(……あぁ。この感じ……懐かしい。

“ここに新しく入って、ちゃんと混ざろうとしてる時間”って人生で何回あるんだろう)



そんな余韻を吹っ飛ばす声が飛ぶ。


女将

「ルカ!!サーヤ!!」


2人

「はいっ!!!」


女将

「走るなって言ってるでしょう!!!」


2人

「はいーーーー!!」


……数分後


ルカ(小声)

「走るよ」


サーヤ

「走るんだ」


2人、こそこそダッシュ。


 


――――――――――――――――


昼と夕方が終わる頃には、足が棒みたいだった。


厨房の端の椅子に座った瞬間、魂だけ抜けかける。


サーヤ

「…今日の仕事………終わった……?」


料理長

「終わってない。ほら、来い」


サーヤ

「はい〜!!!」


反射で立ってた。



―― 湯上がりの一杯、改良会議。


氷の状態。

泡の持続。

温度のピーク秒数。


料理長は職人そのものの顔で、細かいところを指摘する。


料理長

「“美味しい”じゃダメだ。“毎日飲みたい”にしよう」


サーヤ

「はい!」


女将は横で静かに見ている。目は厳しいけど、

どこか、楽しそうだ。


ルカは横で味見担当。

「ひゃ~冷たっ」

「これ好き!」

「これはデートのあと飲むやつだ!」



厨房に笑いが増える。



そして。


「さ……行っておいで」


女将のひと言で、湯殿の暖簾の前に立っていた。


サーヤ

「………………」


(湯の匂いだ……)



服を脱いで、湯に肩まで沈んだ瞬間――


サーヤ

「…………………………」


声にならない声が出た。


あったかい。

やわらかい。

ちょっと、とろける。


(……仕事の後の……温泉…………生 き 返 る)


天井見上げる。


白い蒸気。

遠くの笑い声。

ぱしゃん、って水音。


ぼんやり笑う。


そして――


サーヤ

「………あー、…これは、最高だわ……」


湯気に溶ける声。


ビール飲みたい!



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