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第七章 scene2 再始動

湯気。コーヒーの匂い。

でも空気は重くない。


サーヤはカウンターをトントン叩いて言った。


「――よし!」

急に明るい声。


「……なによ、急に」


サーヤ

「じゃ決めた!あなた、明日からここよろしく!」


「は?え?明日?」


そうだよね、そうなるよね。

でもサーヤ、止まらない。


「ほら、厨房の使い方はだいたい分かるでしょ?

スイーツもいける。会話もできる。落ち着いてる。

ついでに、“理由”もある。はい、採用!」


すごい雑に聞こえるのに――

ぜんぜん無責任じゃない言い方。


女、唖然。

「ちょっと待って……!私、まだ――」


サーヤ、笑う。


「大丈夫大丈夫。

この店ね、優しいし、応援してくれる店だからさ」


軽いのに、変に説得力がある。

サーヤは棚からノートと鍵と木箱を取り出した。


「これは店の資料!常連の好みリスト!

困った時の相談先!味の配合!

あと、ボルドさんのポエム!」


「ポエム!?」


サーヤ

「うん、“人生はコーヒーの湯気みたいなもの”って書いてある」


女、笑ってしまう。

サーヤは鍵を女の前に置いて、


「ほら、持って」

ぐいっと押す。


「“重い使命”とかじゃないの。

“ちょっと預かっといて!”くらい。

ダメなら返してくれていい。

でも――やってみたい顔してるし、やればいい」


女は、思わず鍵を握る。

心がついてくる前に、手がついてくる感じ。


「……あなた、ほんと強引ね」


サーヤ

「褒め言葉として受け取る!」


ふたり笑う。


少しだけ真面目になって、

「それにね、

もしレオン帰ってきたら――」


サーヤ、肩をすくめた。


「“うわ、なんかすげぇいい女いるじゃん”ってなってくれた方が……面白いじゃん?」


女は吹き出す。

「……あなたねぇ」


でも、ちゃんと笑ってる。

その笑いはもう、戦場の人の笑いじゃない。


女、鍵を胸に当てて言う。

「――うん。わかった。預かるわ」


言葉が軽い。

でも、ちゃんと強い。


サーヤ

「はい決まり!じゃ、オーナー!

明日からよろしくお願いします!」


「ちょっと待って、肩書きの与え方軽くない!?」


サーヤ

「だってこの店、“重たい幸せ”似合わないし」


また笑う。


――――


翌朝。


サーヤは荷物を背負ってドアの前。

女が言う。


「本当に行くのね」


サーヤ

「行く行く。思い立ったが吉日よ。

……それに」


少しだけ空を見る。


「レオンにわたしもちゃんと進んだよって言いたいし」


女、笑ってうなずく。

「……任せなさい。

あなたが帰る場所と、“あの人の帰る理由”、ちゃんと守るわ」


サーヤ

「さいこー!」

満点の笑顔。


歩き出す前に振り返り、

「ねぇ!」


「なに?」


サーヤ

「――この店、楽しく使ってね」

泣く代わりに、そう言って。


サーヤは手を振って、

「じゃ、レオンによろしく!!」


軽く、明るく、風みたいに去っていった。


店の鐘が鳴る。

“ここは今日も、ちゃんと開いている”


――旅、再開


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