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第七章 プロローグ

冬の午後。

店は静かな繁忙期。

湯気と、コーヒーの香りと、

いつもの笑い声。


その日、ポストに一枚の封筒が落ちていた。


差出人不明。

見覚えのある字。


開けた瞬間、胸が、少しだけ痛む。

中に――写真が、ある。


砂の匂いがする世界。

崩れかけた壁。

空は白くて遠くて。



レオン。

カードには短い言葉だけ。


〈 ちゃんと “生きてるぞ”。 〉


差出人名はなかった。

でも――

サーヤは笑う。


「……馬鹿」


くすっと。

少し泣きそうで、でも嬉しくて。


指で写真の縁を撫でる。

(ちゃんと、生きてるんだ)


胸の奥で灯った火が、少しだけ強くなる。



そのとき。


カラン――……

ゆっくりと鳴るベル。


入ってきたのは――

女の人。


明らかにこの世界じゃない空気をまとっている。


視線が迷う。

何かを探す。

世界を測ってる目。


サーヤ、わかる。


「……いらっしゃいませ」


女性は少し逡巡してから、

カウンターに座った。


震えてはいない。

でも――


堤防の内側で、もう全部壊れたあとみたいな静かさ。


サーヤ

「寒い日ですね。温かいの、どうします?」


「……じゃあ、えっと

“普通のコーヒー”で」


**


この世界で “普通” って単語、あまり使わない。

サーヤの胸が、コトン、て鳴る。


サーヤ

「ブラック?」


女性、少し笑った。少し迷って、

「あの――カフェラテはあるかしら?」


(……カフェラテ笑)


香りが満ちていく。

この世界ではないであろう、ラテボウルらしき器に淹れてみる。

女は両手で包むように持つ。


「……ありがとう」


飲み、息を吐く。

目が少しだけ柔らかくなる。


沈黙。

でも悪くない沈黙。


サーヤは、

自然を装いながら、

ゆっくり言葉を置いた。


「……最近、

 “文明のある味”が恋しくなる人、増えてるんですよね」


女性の指が止まった。


一瞬だけ、

「ここに世界が繋がった」そんな音がする。


だけど、

彼女は気づかないふりをして飲む。


サーヤ、笑う。


「時々コーラとか……恋しくなったりしません?」


女性の喉が――

ごくん、と鳴った。


カップを持つ指が、

ぎゅっと、強くなる。


そして。


「……どうして?」

声が揺れた。


サーヤ、静かに微笑む。


「ここね。

“そういう人”が迷い込む場所みたいなんです」


女性の肩が崩れる。


揺れない強い顔を保ってきた人が、

一瞬で――ただの人間に戻る瞬間。


「……あなたも?」


問いというより、救いを探す声。


サーヤは頷いた。


カウンターの上に、レオンの “写真” をそっと置く。


「ここはね。きっと、交差点。」


女性が――


俯く。

息を震わせて、でも声は抑える。


「……よかった……」

「ひとりじゃなかったのね……」


サーヤの胸が温かくなる。


この店はもうただの場所じゃない。


“転生した心が、一度息を吸い直す場所”。

サーヤは、湯気の向こうで微笑む。


(ボルトさん、ここはそういう場所なのね)



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