第六章 scene11 大騒動
修(っぽい青年)は、ほんとうに「いい客」だった。
静かに本を読むし、礼儀正しいし、優しいし、
だから、常連にも溶け込んだ。
そして何より――
とても、修に似ていた。
笑った時の目の角度。
椅子に座るときの癖。
帰り際、ふっと手を振る癖。
サーヤは笑って接客するけど……
(似てるわぁ、母視点)
青年は、いつのまにか店の空気に馴染み、
軽口を叩くくらいには距離感が縮まった。
青年
「今日の珈琲はちょっと優しい味ですね」
サーヤ
「そう?気分で変わらないんだけどなぁ、味って」
青年
「いえ、人が淹れてるんですから“心の濃度”は必ず入りますよ」
(……ちょっと、くさいわ…)
常連客(妙齢の奥様)
「あの子、爽やかで感じいいけど…
…なんか“匂う”のよね」
サーヤ
「また始まった…笑…」
奥様
「“いい男すぎる男”は、一回疑いましょうっていう昔からの家訓よ」
サーヤ苦笑。
でも、同意ね。
⸻
青年は懐くのが早すぎた。
いつの間にか、隣に立つ。
いつの間にか、カウンターの内側を覗き込む。
そして――
「あの……サーヤさん」
「ここ、危なくないですか?」
え?
青年の目が、一瞬だけ、
“本当に心配してる”
“何か知ってる”
そんな色をした。
青年
「一人で守るには……優しすぎる店です」
言い終えると、笑顔に戻る。
サーヤ
「……大丈夫よ(いや、むしろあなたが怪しいわね)」
笑って返す。
⸻
ある日の閉店前。
青年
「ここは……いい場所ですね」
「だから……守りたいと思う人、たくさんいると思います」
サーヤ
「そんな、大げさな店じゃ――」
青年
「大げさですよ。でも……」
少し真面目な声。
「狙われやすい」
空気が一瞬、冷える。
青年は笑って帰った。
何事もなかった顔で。
⸻
翌日の夕方。
カランッ!!!!!!!!
ドアが、爆弾みたいに開く。
店がビクッと揺れる。
立っていたのは――
超絶美人・超絶キレキレの怖い顔の女性
全力で息切れしてる。
店内静止。
女性、青年を見つけて――
「――――ほんっっとにあんたはあああああ!!!!!!」
地鳴り。
客の心拍数が跳ねる。
青年
「えっ、あっ、あの、これは違――」
ドゴォッ(※机を叩く音)
女性
「“違う”のテンプレをまずやめろや!!!!」
青年
「はい!!!!」
常連奥様、指さして叫ぶ。
「見なさいサーヤちゃん!!
やっぱりクズ男よ!!!」
青年
「ちが――」
女性、追撃。
「昨日言ったよね!?
“今日は早く帰る。家族で夕飯食べる”って言ったよね!?」
青年
「ふぁい!!」
女性
「帰ってこない!!探したら!!
ここの常連!!!?
どういう神経!!????」
青年土下座。
客、拍手。
サーヤ
「……あの……彼女さん?」
女性
「妻です!!!!」
さらに拍手。
冷静じゃなきゃいけないのに――
サーヤ。
笑った。
くす。
くすくす。
ぶはっ。
女性
「え?」
青年
「え?」
サーヤ、涙出るほど笑って、
「……なんか……
すっごい“生きてる”って感じがして……」
「ありがとうございます。
……なんか……救われました」
店内が少し柔らかくなる。
サーヤ、青年の目をまっすぐ見る。
「――あなたね」
青年、背筋シャキッ。
「カッコつけるな」
青年
「え?」
サーヤ笑顔だけど言葉が鋭い。
「“癒される場所見つけただけ”とか言ったでしょ。
でも違うよね?自分が思い通りにできそうなところを見つけて、狙ってたのよね?」
青年、図星。
妻、腕組みドヤァ。
青年
「……はい」
サーヤ
「居場所を見つけるのは自由だけど、人の場所、奪おうとしないで」
青年、拳を握る。
妻の目が少しだけ優しくなる。
サーヤ
「奥さん怒ってくれて良かったね。ちゃんと帰りなさい。いい?家庭っていうのはね…(主婦の説教)」
青年
「……はい」
妻
「帰るよ」
青年
「はい!!!!」
退場。
笑いが残る店内。
常連奥様
「ね?だいたい男ってああいう生き物よ」
サーヤ
「……うん」
コーヒーの湯気。
一拍置いて――
サーヤ、また吹き出す。
ぶはっ。




