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第六章 scene7 告白

夜。

雨の気配を含んだ空気。

店の灯りは落ち、寝室だけが薄く暖かい光を抱いている。


扉をノックする。


サーヤ

「ボルドさん、入ってもいい?」

弱いけど、ちゃんと返事がある。


「……あぁ。入っておいで」



ベッドの上の老人は痩せていた。

けれど、目だけは冴えている。


二人が近づくと――


ボルドは、少し笑った。

「……手紙、見つけたんだな」


サーヤ、小さく頷く。


レオンは言葉を探している。


沈黙。


しばらく、その沈黙を楽しむように目を閉じたあと――


ボルドは、静かに口を開いた。


「……わしはな」


軽いようで、重い声。


「――転生者なんだ」


 


空気が――止まる。

外の風の音さえ、一瞬遠くなる。


サーヤ

「……え?」


レオンの喉が鳴る。


ボルドは笑わない。

でも冗談でもない。


「幸運なことにな。

わしは、妻と“二人一緒”にこの世界に来た」


声が震える。


「馬鹿みたいだろう?

“生まれ変わるなら君と一緒がいい”なんて言ってたら……本当に、一緒に来ちまってな」


 

言葉にして、はじめて少し泣きそうな顔になる。


「生きるのも、笑うのも、喧嘩するのも……

全部、もう一度やらせてもらった」


「この人生は――

“神様の冗談みたいな“とんでもないプレゼントだった」



サーヤ、言葉が出ない。


レオンは視線を落とし、拳を握る。


 

そして――


ボルドの視線が、 二人をまっすぐ射抜く。


「……でだ」


「お前さんらも、そうだろう?」



逃げ道を許さない目。

ただ、優しいけど、絶対に嘘は見逃さない目。


レオンは笑おうとして――笑えなかった。


サーヤの心臓が跳ねる。


ボルド

「言葉の端、空気の選び方、“死と生”の捉え方」


「この世界で生まれただけの子どもが

“あんな目”をするもんじゃない」



静かに、確信で言う。


「お前たちは――この世界の住人じゃない」



さらに、柔らかく――


「だがな」


「それは隠して生きていい。

“それは逃げることじゃない”」


「ただ――」


「お前たちが “誰であるか” を、“自分自身から”隠しちゃいかん」


 

サーヤの目が揺れる。

レオンの胸に刺さる。



ボルドは微笑む。


「わしは、幸せだったよ」


「この世界で生き直したことも――

“この世界のわし”として終われることも」



その目にはもう迷いがない。


「だから、選べ」


「旅でも、店でも、逃避でも、戦いでもいい」


「“今の自分で選んだ人生”だけが――

お前たちの“本物の世界”になる」


――静寂。


サーヤ、震えた声で。

「……ボルドさん」


でも涙ではなく。


尊敬と、

祈りと、

覚悟に似た声で。


レオンも、静かに頭を下げる。

「……ありがとう」



ボルドは軽く目を閉じた。


「礼はいらん。

ただ――」


少しだけ悪戯っぽく笑う。


「“もし子どもができたら”

“この世界の子ども”として、思いきり悩ませてやれ」



サーヤ、吹き出しそうになりながら涙を堪える。


レオンも、苦笑で息を吐く。


 


夜は静かに降りていく。

でも二人の胸には――


逃げ場ではなく、“立つ場所”がひとつ増えていた。



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