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第六章 scene2 カフェ

――昼下がりの石畳。


レオンの熱も完全に下がり、出発の準備を整えて宿を出た二人は、市場の通りを歩いていた。


人の声。香辛料の匂い。

パン屋の焼ける匂いと、甘い菓子の香り。


サーヤ

「さて、そろそろ移動しよっか――」


その瞬間。


「おっと……っと、」


ぐらり、と視界の端で揺れる影。


荷車を押していた老人が、足を取られたように転びかけ――


ガチャンッ!


ガラス瓶と金属のぶつかる音。

茶色い液体が、石畳を濡らした。


サーヤ

「わぁぁ、危ない!」


レオン

「っとっと!」


二人が支えに入る。

老人は膝をついて苦しそうに顔をしかめた。


「……はは、若いの助かったよ。

歳を取ると、足が勝手に転ぶんだ」


しかし笑おうとした瞬間、顔が歪む。


レオン

「無理すんな、それ捻ってるよ。歩けるか?」


「……店はすぐそこなんだがね。

放っておくと盗られてしまうし……」


サーヤ

「じゃあ、一緒に行こう。荷物も、持つよ」


老人は少し驚いて、ほんのり嬉しそうに笑った。



小さな裏路地の先の可愛い木の扉。

小さな看板。窓からコーヒーの香り。


――小さなカフェ。


サーヤ

「いい匂い……」


老人は椅子に座らされ、足を冷やされる。

レオンは包帯を巻く手つきがやけに慣れている。


老人

「すまんな、旅人に世話をされるとはね……

私は ボルド。

ここで、小さな店をやってる」


サーヤ

「わたしサーヤ。

で、こっちがレオン」


レオン

「よっ」


ボルドは笑った。

「コーヒーでも……と言いたいところだが」


足を見て苦笑する。


サーヤ

「無理しないで。

今日は店、お休みましょう」


しかし――


老店主は、少し苦い顔で言った。


「……本当は、休めないんだ。

この街は開拓の途中でね。

“ここでコーヒーを飲む時間”を、

“文明の象徴”だと言って楽しみにしてくれる人が、まだ沢山いる」


「でもこの足じゃ、立てない。数日は無理だろう」


溜め息。

そして、サーヤたちの荷車に目がいった。


「さっき君らの荷車を見たよ。

移動販売だろう?」


サーヤ

「うん。パン売りながら旅してるの」


ボルド

少し迷って、言葉を選ぶ。

「……ここで、少しの間だけ、店をやってくれないか」


サーヤ

「……え?」


レオン

「は?」


ボルド、柔らかな目で笑った。


「もちろん無茶は言わないし、ダメならいい。

“君らのパンとついでにコーヒー”くらいでいいんだ。

店の空気が止まらなければいいんだ」


「この街には、“休めない人間”が多い。

“少しだけ立ち止まれる場所”が必要なんだ」


サーヤの胸が――きゅっとなる。


ボルド

「報酬はちゃんと払う。それに……」

「きっと君たちにも、悪くない時間になる」


レオンは頭をかいた。


レオン

「おいおい……

熱で寝込んだばっかの俺に、また働けって言うのかよ」


でも、笑ってた。


サーヤも笑っていた。


「──いいよ。少しだけ、ここで“止まろう”

わたしもちょっと立ち止まりたいと思ってた」


窓の外では、

昼の喧騒がゆっくり流れていく。

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