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第五章 scene9 別れ

朝の光が静かに差し込む宿の前。

昨日まで“逃げるための場所”だった街が――

今日は、“これから生きる街”になっている。


妹は荷物を抱えて笑った。

「わたしたち、ここで……やり直してみるね」


サーヤも笑う。

でも胸の奥は、少しだけ切ない。

熊男は、何も多くは語らない。


「――助かった」


それだけ。

けれどそれは、

鎧にも、孤独にも、後悔にも隠されていない。


ただの “人間の声”。

レオンが肩をすくめる。


「恩返しなら、いつかでいい。

その時は、美味いもん奢れよ」


妹がくすっと笑う。


「来てよ。二人とも。

兄さんとわたしで、きっと……いい食堂、やるから」


サーヤの胸が少し温かくなる。


「約束ね。その時は、絶対顔出す」


熊男は少しだけ視線を逸らし、

照れくさそうに呟く。


「道中……気をつけろ。山に行くなよ。

熊が出てももう助けてやれんぞ」


レオン

「お、おう。

お前も――“ちゃんと生きろよ”」


微かな沈黙。

でも痛くない沈黙。


妹が一歩進み、深く頭を下げた。


「ありがとう。

兄さんを……引き戻してくれて」


サーヤは首を振る。


「引き戻したのは、あなたよ。

私たちは、ただ一緒に鍋を囲んだだけだよ」


風が吹く。

道は別れる。

でも、切れない。


そんな風に――感じられる別れ。


「また、会おうね!」


サーヤ

「うん!」


レオン

「元気でな」


熊男

「あぁ」


 


二人は振り返らない。


でも、背中は――

確かに 前へ進もうとしている人間の背中 だった。



道に戻る。

荷車の軋む音。

風。

陽の匂い。


レオンが言う。

「あ、名前聞くの忘れた。」


「……さて、相棒よ。

ここから先、どうする?」


サーヤは笑う。



「ねぇ、レオン。その前に教えて。

あなたはいったいどこから来たの?」

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