第五章 scene2 探偵レオン
妹は涙を拭う。
「兄さんを……追わなきゃ」
震えながらも、必死に前を見る顔。
「謝りたい。
……ちゃんと抱きしめて、言いたい」
「“兄さんは悪くなかった”って……!」
騎士も息を吸う。
「俺もだ」
拳を握る。
「“仲間”として、胸張って、もう一度顔を見て言いてぇ。すまなかった。そして――帰ってきて欲しいって」
空気が熱を帯びる。
“山へ追いかける決意”
2人の瞳には迷いがない。
サーヤ、微笑む。
(……よかった)
――そこに。
レオンが、ぽん、と手を打つ。
「よし、熱いのはいい。いいんだけどさ――」
「…………落ち着こうか、2人とも」
妹
「え?」
騎士
「なんだよ」
レオン、少しだけ真面目な顔になる。
「妹さんには悪いんだけどな」
レオンの声色が少し変わる。
「旦那さん――
“ひとりで裏切りをやろうとした”って、本当に思うか?」
妹、息を止める。
騎士の目も細くなる。
サーヤ
(レオン……?)
レオンは、鋭い目をしていた。
「護衛対象を狙う。
遠征中。
野盗騎士崩れが出るタイミングで。」
指を折る。
「“偶然にしては出来すぎ”じゃねぇか?」
静かに続ける。
「普通なら――」
「“仲間”が必要だ」
場が凍る。
妹の顔が青ざめる。
騎士
「……!」
「護衛行動は隊列と役割が固定される。
誰がどこにいるか、どこが手薄になるか――」
「“中にいる奴ら”が一番知ってる」
サーヤ
(……っ! そうだ)
もし――
本当に裏切り計画があったなら。
「妹の旦那さんひとり」
で済む話じゃない。
レオンは静かに言う。
「妹さん」
「……旦那さん、“利用された”可能性、あるぜ」
妹の肩が震える。
「もし“もっと上”に黒幕がいたなら」
「兄貴を悪者にして退場させて」
「“本当の裏切りの芽”は――
まだ騎士団のどっかに残ってるかもしれない」
騎士、奥歯を噛む。
「…………ッ」
拳が震える。
レオンの言葉が続く。
「そして――」
「上官が“喧嘩の噂で終わらせた”のも」
「“騎士団の体面”のためだけとは、限らねぇだろ?」
騎士
「……つまり」
レオン
「あぁ」
「**“臭いものに蓋”じゃない」
「“まだ何か隠れてるから
表に出せなかった”可能性がある」
沈黙。
風が通る。
ただの人情話じゃなかった。
ここに来て、物語が一段階、深みに入る。
妹の声が震える。
「じゃあ……兄さんは、まだ――」
レオン
「“矢面に立った盾役”だった可能性がある」
サーヤ、胸が締めつけられる。
(そんな……)
(そんな優しさの形、
あの不器用な人に似合いすぎてる……)
騎士は顔を上げた。
もう迷いのない、戦う目。
「……調べる」
低い、覚悟の声。
「俺が。俺の仲間の手で」
「“騎士団の真実”を洗う」
サーヤ
「……お願いします」
深く頭を下げる。
妹も、涙を流しながらうなずく。
「兄さんのためにも……
夫のためにも……」
「本当のこと、知りたい」
レオン、肩をすくめる。
「それがいい」
「山に走るのは、その後でも遅くねぇ」
ニッと笑う。
「“本当に守るべきもの”
ちゃんと守った顔で会いに行け」




