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第四章 scene7 従者のための日

屋敷の庭は、いつもの静かな佇まいとは違っていた。


白いリネンのクロスがかけられたテーブル。

小さな花瓶に差された庭の花たち。

青空を映すクリスタルのグラス。


だけど――豪奢すぎない。

むしろ、“誰かのために柔らかく整えられた場所”という空気だった。

 


サーヤとレオンは、庭の端。

パーティーの中心からは少し距離を置いた位置で動いていた。


エプロン姿でもない。

料理を担ってもいない。


ただ、

「困ってる人がいたら気づく役」

――完全に“裏方”だ。


レオンが肩を回す。

「……なぁ、サーヤ。なんか今日は平和な日って感じだな」


サーヤは小さく笑った。

「うん。今日は“この庭での笑顔”を見る日だよ」



やがて庭に、屋敷の従者たちが集まり始めた。


メイド。

執事。

庭師。

馬丁。

書類管理係。

洗濯係。

炊事場の若手。


――“屋敷を支える人たち”が、少し戸惑い気味に立ち並ぶ。


リリアが前に出る。

その姿は、震えていたけど――しっかり前を向いていた。


「今日は……」

声が風に乗る。

「わたしが最初に開くパーティーです」


「でも同時に――

“いつも外の世界からわたしを守ってくれている人たちへ”ありがとうを込めた時間にしたい」


従者たちが、驚いたように顔を上げる。

リリア、微笑んだ。


「どうか今日は、“仕事の顔”じゃなくて。

ただ、楽しんでください」


優しく頭を下げる。

庭に、温かいざわめきが広がった。


サーヤの胸が、すごく静かに満たされる。


(……いい。リリア。

あなた、もうちゃんとホストだよ)



カインの声が響く。


「では――お嬢様より賜ったこの宴、始めましょう!」 


テーブルの蓋が一斉に開く。

香りが、広がる。


小ぶりのカルツォーネ。

ぱりっと焼かれ、手に収まるサイズ。

中からは湯気。

笑顔が生まれる。


ミニキッシュ、ミートパイ。

「これ可愛いな!」

「一口で食べられるの、助かる!」


華やかなカナッペ。

「色が……きれいだ……!」



そして。


サーヤが見守る先で――

**“飾れるクレープコーナー”**が始まった。


メイドたちがわくわくしながら並ぶ。


「これ……わたしの好きに選んでいいの?」

「え、これも乗せていいの!?」

「かわいい!」


生地が差し出され、果物が選ばれ、

クリームが乗り、彩られていく。


「ねぇ見て!わたしの、可愛くない?!」

「あんたセンスあるわね!」

笑い声が飛ぶ。


その様子に、

サーヤもレオンも――胸がふっと軽くなる。

レオンは腕を組み、少し誇らしそうに笑う。


「……あれだな。

俺たちが作ったもんより、みんなが完成させてる顔のほうが旨そうだな」


サーヤも笑う。


「そうだね。

“食べる”だけじゃなくて――

“思い出に参加してる顔”だもん」



父親が腕を組んで見ている。


「……で」


隣にいたサーヤとレオンへ視線を向けた。


「勝負はどうした?」

軽く挑発するような声。


しかし――その瞬間、カインが前へ出た。

深く頭を下げる。


「お言葉ですが――旦那様」

静かで、しかし確かな声だった。


「我々、厨房一同――全面的に降伏いたしました。」


父親

「……は?」


カイン、真っ直ぐな瞳で続ける。


「お嬢様が望まれたのは勝ち負けのための宴ではなく――」


従者たちの笑い声が、風に乗る。

「この屋敷に生きる人すべてのための 宴 です」


「ならば――

私たちは“敵”ではなく“支える腕”であるべきだと判断しました」


 

父親は言葉を失う。

笑うでもなく、怒るでもなく。

ただ、しばらく――黙って、庭を見ていた。


一口カルツォーネを手に取り、思わず吹き出したメイド。照れくさそうにクレープを見せ合う若い従者たち。決して豪華ではないけれど、確かに幸せな光景。


やがて。


彼は、ほんの少しだけ口元をゆるめた。

「……そうか」


ぽつりと。

「悪くない」 


サーヤもレオンも、息を吐く。


(――よし)


 


リリアは、少し離れた場所で従者たちと笑っていた。


背筋を伸ばし、でも作り笑いじゃなくて――

“守られていた少女”ではなく、“誰かを迎える主”の顔。


サーヤは、胸に手を当てて、静かに思う。


(……本番に向けて、ここからだね)


 


パーティーは続く。


優しい光と、笑い声と、少しだけ未来の匂いが漂う庭で。

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