第四章 scene3 幸せの記憶
屋敷の客間。
テーブルいっぱいに紙とペン、色鉛筆。
お茶とお菓子。
完全に “女子だけの秘密会議” の空気。
リリア
「サーヤ……!
“女の子の夢のガーデンパーティー”って、
どうしたらいいの?」
サーヤ、椅子に倒れこむ。
「うわぁ……超プレッシャー……!」
だけど、笑う。
――ホームパーティー。
――手作り。
――家族。
――茜。
胸の奥で、懐かしくて少し切ない温度が灯る。
(……思い出せ。私、“誰かのためのパーティー”って
ずっとやってきたじゃない)
リリア
「サーヤ?」
サーヤ
「よし!」
ぱんっと手を叩く。
「リリア。
“誰のためのパーティー”にしたい?」
リリア
「わたしの……“わたしらしいパーティー”!」
でもすぐ困った顔になる。
「でも……“上流階級のマナー”とか、“見栄え”とか……
いつもそればっかりで……」
サーヤ
「違う違う違う。これは、“リリアの”でしょ?」
指で自分の胸をトントン。
「だからまず――“あなたが笑えるパーティー”にしよう」
リリア、ぽかんとする。
そしてふわっと笑った。
「……そんなこと、言われたの初めて」
サーヤは紙に大きく書く。
──【テーマ】──
“リリアの、最初の“外の世界の扉”パーティー!”
リリア
「わぁ……!」
サーヤはペンを走らせる。
「じゃあ想像しよ!“楽しい日”ってどんな日?」
リリア
「楽しい日……」
すこし考え――
「誕生日!」
サーヤの胸が――きゅう、と締めつけられた。
視界が、ほんの一瞬だけ遠くなる。
心に浮かぶ情景
――部屋いっぱいの風船。
――手作りのケーキ。
――少し照れくさそうな娘の顔。
――写真を撮ろうとして慌てる自分。
――笑いながら、「ママ、落ち着いて」と言われた声。
(……誕生日)
声にならない言葉が胸で弾ける。
手を伸ばしたら、触れられそうな記憶。
でももう、絶対届かない。
思い出が温かくて、同時に痛い。
続けてリリアが言う。
「国の生誕祭も……知ってるの。すごく華やかな日なんでしょう?」
その言葉で、また景色が浮かぶ。
――小さなツリー。
――コンビニケーキでも嬉しそうだった笑顔。
――仕事終わり、ぐったりしながらも飾りを付けた夜。
――「サンタさん、今年も来るかなぁ」なんて無邪気な声。
甘くて、泣きたくなる匂いがした。
リリアは気づかず続ける。
「新年のお祝いはどんな行事?
屋敷の者が教えてくれて……」
サーヤ。
今度は――
静かな食卓が浮かぶ。
――少し遅めのお雑煮。
――テレビの音。
――寝ぐせのまま笑う娘。
――「今年もよろしくね」って軽くハイタッチ。
(……あぁ)
胸の奥で、何かがほどけ、そして崩れそうになる。
(あの子たちの誕生日も、
クリスマスも、お正月も――
“もう一度” は来ない)
それは、ずっと分かってたはずなのに。
今、リリアの無邪気な言葉で――
痛みとして、改めて突き刺さった。
唇を噛み、俯きそうになる。
でも。
リリアが笑った。
「……サーヤ、わたしね。
外のお祭りとか、パーティーとか……ずっと夢見てたの」
その声が――
胸の奥の “母の部分” を優しく叩いた。
サーヤは、そっと息を吸う。
私はもう、あの時間には戻れない
でも。
(――今、ここに笑顔にさせたい子がいる)
(だったら……今なら、この手で、
“この子の幸せ” を作る)
胸の奥に、静かに“灯り”が戻る。
サーヤは小さく笑った。
「誕生日はね。おめでとう、あなたが生まれてきてくれて良かった日
生誕祭は――
今日は笑っていい日だよって国中が言ってくれる日
新年は――
“ここからまた一緒に始めようね”って願う日」
リリアは目を丸くする。
サーヤ、少しだけ優しい声で続ける。
「だから――その全部を、
あなたの“最初のガーデンパーティー”に込めようよ」
リリアの胸が震える。
サーヤは微笑む。
(……茜。あなたにしてあげられなかった分も――)




