第四章 scene1 初めての我儘
その瞬間、空気が割れた
少女の
「ガーデンパーティでカルツォーネを出したいの!!」
その言葉が落ちた瞬間。父親の表情が――ぴき、と固まった。
重い沈黙。
やがて。
「――――駄目だ」
低い声が応接間に落ちた。
少女、びくりと肩を揺らす。
サーヤとレオン
((でしょうね!))
父親はテーブルに指をトン、と叩いた。
「いいか。あれは“屋台の食べ物”だ」
「労働者や旅人が食べるものだ」
「うちの客人は貴族のご令嬢方だぞ? そんな“庶民の食い物”を出してどうする」
母親も、少し困ったように唇を噛む。
「そうね……その気持ちは分かるけれど――」
父親は言葉を被せた。
「それに、料理なら屋敷付きの料理人がいる。
我が家の誇りだ。外の者の力など借りずとも充分だ。そもそもそれを食べたいなら今後は料理人に作らせればよい」
少女の拳が――ぎゅう、と膝の上で丸くなる。
「……嫌」
その声は、震えていたけど。逃げなかった。
父親の眉が動く。
少女は、ぐっと顔を上げる。
「嫌よ、お父様。“ちゃんとわがまま”を言うの、
きっとこれが初めてなの」
母親の目が揺れる。
少女の声が、胸の奥から溢れるように続く。
「私はずっと屋敷から出られなかった。
お茶会も読書も刺繍も、全部ここで。
わたしが“望むこと”も、“誰かにお願いすること”も、
わたし、ずっとしてこなかった」
「でも――」
涙をこらえながら笑う。
「このカルツォーネを食べた時ね……
“外の世界を感じた”の」
「風の匂い」
「人の声」
「知らない誰かの暮らし」
「……そんな気がしたの」
沈黙。
少女は、まっすぐ父を見る。
「だから、これはただの“庶民の食べ物”じゃないの!“私が世界に触れた記憶”なの!!」
父親の手が止まる。
母親、静かに口元を押さえる。
サーヤ、胸が締めつけられる。
(堪えるんじゃない、ちゃんと気持ち伝えてる…偉いな)
横でレオンがチラっとサーヤを見た。
(あー、完全に“突っ走る目”してる……)
少女
「お父様。私……初めて“してみたい”って言ってるの」
「“ただ贅沢したい”んじゃない」
「“ただ目立ちたい”んじゃない」
「“私の人生を、自分で選んでみたい”の」
父、言葉を失う。
レオン(心の声)
(やべぇ……)
(この空気、サーヤにスイッチ入るやつじゃねぇか……!)
横目――
サーヤの目、完全に“戦う女の目”。
レオン
「おい、サーヤ。待てよ?
今、絶対バチバチに突っ込むつもりの顔してる……!」
でも――もう遅い。
サーヤ
「あのー……」
手を挙げた。
全員の視線が集まる。
サーヤは一歩前へ。
礼儀は崩さない。
でも、引かない。
「突然すみません。出過ぎた真似は承知です」
「でも――」
笑った。
「“ガーデンパーティの料理コーディネート”
わたしに提案させてもらえませんか?」
父親「……なんだと?」
母親「…コーディネート……?」
サーヤの目が、きらり。
「はい!」
「ただカルツォーネを出すんじゃありません」
「“貴族の格式を守りつつ”“娘さんの夢を叶え”
“屋敷の価値も上げる”」
「その全部を叶える提案――できます」
少女の瞳が、輝いた。
レオン、頭を抱える。
「……ほら言ったぁぁぁぁ!!」
「完全に乗ってきやがったぁぁぁ!!」
でも――
笑ってた。
(あぁもう……この相棒、好きだわほんと)




