第四章 プロローグ
豪奢な黒い鉄の門が、静かに開いた。
その奥に広がるのは――
あまりにも大きくて、
少し“息苦しいほど完璧”な屋敷だった。
見惚れるほど広い庭。
行き届いた芝。
噴水の水音。
圧倒される2人。
玄関ホールの扉が開く。
出迎えたのは――
宝石をこれでもかと身につけた、ふくよかな淑女。
その隣に、金で装飾された杖を持つ夫。
「よく来てくれたわ!」
淑女は本当に嬉しそうに言った。
「ずっと娘が楽しみにしていたのよ」
夫も、ぶっきらぼうに笑う。
「わざわざ悪かったな。ここの者どもが毎日大騒ぎでな。“あの包み焼きをもう一度!”って、うるさくてうるさくて」
その声には悪意がなく、むしろ誇らしげ。
階段の上から――
そっと顔をのぞかせた少女。
年はサーヤと同じくらい。
ふわりとしたクリーム色のドレス。
だけど――ほんの少し、外の世界に触れていない静けさ。
「……本当にいらしてくれたのね」
少し照れた声。
サーヤは、微笑む。
「はい、“美味しかった”って言葉、伝えてもらったから」
少女の頬が、ぱっと明るくなった。
(あ、かわいい)
応接間。
大きすぎるテーブル。
豪華すぎる椅子。
そこに――
旅人の料理が置かれた。
熱い湯気。
焼けた小麦の香り。
チーズの溶ける音。
少女は、恐る恐る、そして大切そうに一口。
――目が、輝いた。
「……やっぱり……これ、大好き」
それは、
“外の世界を味わった”少女の笑顔だった。
母親は胸に手を当てる。
「こんな顔、久しぶりに見たの……」
父親はむすっとしながらも、鼻を鳴らす。
「……まぁ、悪くないな」
(すごい褒めてるやつ)
母親がふと、サーヤを見る。
「あなた……いくつ?」
「…16(ほんとは13だけど!)」
「まぁその年で、旅をして、仕事をして……
ちゃんとお金も稼いで……立派ね」
サーヤは、一瞬言葉を失う。
胸の奥が、少しだけ暖かくなる。
少女は、ぎゅっと手を握る。
「素敵……!私、ずっと憧れてるの。
世界に出て、自分で決めて、自分で歩く女の人に」
少女は、少し息を吸った。
そして――
思い切って言う。
「ねぇ……お願いがあるの」
母親と父親が振り向く。
少女は、逃げずに続けた。
「今度、初めて……
“お友達を呼んでガーデンパーティ”をするの」
「お父様のお言い付け通り、外には出ないわ!
だから“ここで少しだけ世界に触れているみたいな時間”が欲しくて」
サーヤ、息を飲む。
少女の目が、サーヤをまっすぐ見つめる。
「そこで――」
「あなたのカルツォーネを出したいの!!」
勇気と期待が混じった声。
震えるけど、揺るがない願い。
「“外の世界の味”を、ここに連れてきたいの」
その瞬間、屋敷の空気が――
少しだけ、
本当に少しだけ。
自由になった気がした。




