第三章 scene11 追跡
舗装もまばらな街道。
荷車を引き、少し笑い合いながら歩く二人。
サーヤ
「……ねぇレオン」
レオン
「あぁ。気のせいじゃねぇなら、さっきから“ついてきてる”よな」
背後。
遠く。
一定の距離を保つ 黒い馬車。
(絶対あいつらだ!!)
サーヤの背中に冷たい汗。
レオン、小声で。
「とりあえず前だけ見て歩け。合図見たら走るぞ」
(逃げ腰コンビ)
しかし――馬車はぐん、と距離を詰めた。
止まる二人。
馬車の扉が開く。
……中から降りてきたのは、上品な身なりの女性だった。驚くほど静かな仕草。でも目だけは、真剣に真っ直ぐ。
女性
「おどかしてしまいましたね。
あなた方に――用があるんです」
レオン
「……用?」
女性は一度、丁寧に頭を下げた。
「あなた方の料理を買っていた者です」
サーヤ
「――!」
そういえば。
祭り二日目から、毎日、まとめ買いしていた客がいて、街を移ってからもこの人は連日来てた。
控えめで、賑わいの端に立って。人混みを避けるように、でも必ず笑って帰る女性。
女性
「あの……とても、喜ばれたのです」
胸に手を当てる。
「私の仕えるお屋敷の“お嬢様”が。
あれからずっと、『あの包んで焼いたパンは、もう食べられないの?』と……」
サーヤの胸がふっと温かくなる。
女性は勇気を振り絞るように言った。
「――よろしければ」
「屋敷にいらっしゃいませんか?」
レオン
「は?」
女性
「もちろん強制ではできませんけれど。ですが……」
少し、俯く。
「……お嬢様は、長いこと“外に出られない方”でして」
サーヤ、息を飲む。
女性は続ける。
「街の空気も喧騒も、屋台の賑わいも、
人の声も――全部、遠くから眺めるだけの生活」
「でも、あなた方のパンを食べて……
“ああ、世界って、こんな味がするのね”
と、笑われたのです」
その目は、もう客ではなく
一人の“誰かを想う人”の目だった。
レオン、手を後頭部に当てる。
「……つまり」
「悪い連中じゃない」
「怪しい契約でもない」
「ただ、食わせてやってほしい」
女性
「それだけです。それ以上は、何も求めません」
(“自由に旅する権利”を、奪いにきたんじゃない)
(純粋に、“もう一度食べたい”ってだけ)
サーヤ、胸が揺れる。
(求める人に料理を届けられるなら――
それって、私がやりたいことじゃない?)
レオンは横目でサーヤを見る。
「……どうする?」
サーヤ、少しだけ笑う。
「行こうよ」
レオン
「即答だな」
サーヤ
「だって――」
「誰かに、ちゃんと届いたんだよ?
それって嬉しいし、放っておけないじゃない」
レオンは笑って肩をすくめた。
「……はいはい。なんかお前のことわかってきた。
俺は相棒の“いい顔してる時”に逆らえねぇんだよ」
女性はホッと微笑んだ。
「ありがとうございます。
では――屋敷までご案内します」




