第三章 scene7 港
考えがまとまらず、翌朝。港に立ち寄った2人。
港の朝は、独特の活気。
•魚を捌く音
•船の綱が軋む音
•氷のかごが運ばれる音
•それを取り囲む人の声
サーヤの目が一瞬で輝く。
「――魚だ!」
レオン
「魚には見えるが……どうした急に!」
サーヤ
「昼の顔!
“ちゃんとご飯を食べる人のためのお昼”って、
こういう素材があるべきでしょ!」
彼女はあれこれまわって、匂いを嗅いで、値段を睨んで、港の親父と普通に市場トークを始めてしまう。
最終的に――
白身・脂の魚・香ばしい焼き向き、骨付き数種、そしてあら。
サーヤ、両手いっぱいの魚抱えて走る。
レオン
「おい!!買いすぎだろ!!!」
サーヤ
「大丈夫!全部使う!」
⸻
店に戻り、息を切らしながら魚を並べる。
ドン!
ドン!
ドン!!
親父
「……なんだこりゃ」
サーヤ、息を整えながら。
「――昼は、魚で行きましょう」
「“昼の魚膳”」
「煮付け・焼き・その日の気まぐれ一品
それから――」
手を握って掲げる。
「あら汁!!」
親父とレオン、
ぽかん。
レオン
「あら汁?……うまそうなのは分かるが……想像が……」
親父
「骨の汁だろ?だしは出るが……客に伝わるかね」
サーヤ、笑う。
「じゃあ――作るから。食べてください」
⸻
サーヤがエプロンを結ぶ。
テンポを一切落とさない。
•〝頭を落とす音〟
•〝包丁が骨に当たる音〟
•〝出汁が立ち上る音〟
親父が最初に固まる。
(手付きが……“迷いがねぇ”)
レオン、横で皿を並べながら呟く。
「ほんとにすげぇ……ほんとにまだ子どもかよ……」
サーヤは作りながら説明する。
•カレイの煮付け
→ 甘辛すぎない。酒の店じゃない、“昼の味”
•ブリ大根
→ 寝かせる前提。煮詰めすぎない。翌日に勝つ味
•照り焼き
→ 香りで客を連れてくる役割
そして――
あら汁。
鍋から立ち昇る湯気。
魚の旨味。
生姜の香り。
透明なのに濃いスープ。
彼女は静かに言う。
「“ちゃんと食べたい日”の味です」
⸻
親父が箸を取る。
沈黙。
一口。
二口。
ゴクリ。
親父、何も言えない。
レオンが恐る恐る飲む。
目が見開く。
レオン
「…………やべぇ」
サーヤ
「――これが、“おかえりの味”です」
⸻
親父
「……お前……」
しばらく声が出ない。
笑うわけでも、泣くわけでもない。
でも、震えた声で言う。
「お前……何者だ……?」
サーヤは少し笑う。
「ただの――
“あっちで台所守ってた、アラフォーの女”よ」
⸻
親父が言葉をまとめられないうちに、レオンが手を叩く。
「なぁ。これに――“選べる小鉢”、付けねぇか?」
親父
「小鉢?」
レオン
「旅してて思ったんだよ。
“ちょっと嬉しい”って、腹いっぱいになるより強ぇ」
•ちょっとした煮物
•胡麻和え
•南蛮
•昨夜の仕込みから生まれる“家庭の味”
レオン
「“今日はどれかな”って楽しみがある店。
そんな店は、忘れられない」
サーヤ
「レオン、それ最高!」
親父、深くうなずく。
「よし……やろう」
拳を握る。
「“昼は魚の店”だ。
うちは……“腹を抱えて帰る場所”になる」
レオン笑う。
サーヤ、少しだけ目頭が熱い。




