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第三章 scene5 街歩き

朝の街は、昨夜の祭りの余韻を残したまま静かだった。


屋台の跡。

紙くず。

笑い声の残り香。


サーヤとレオンは並んで歩いていた。

どちらからともなく、息を合わせて同じ歩幅になる。


不意に、レオンが口を開いた。

「……なぁ、サーヤ」


少し照れた横顔だった。


「俺さ。こうやって、どっかの街で仕事して、

人に世話焼かれて……

こういうの、“向いてねぇ”んだと思ってたんだ」


サーヤ、横目で見る。


レオン、笑う。


「俺、基本ふらふらしてただろ?」


「パン屋手伝ったり」

「失敗商品売ったり」

「気づいたら違う街」


「“ここが俺の居場所だぜ!”なんて、一度も言えたことねぇ」


――ぽつ、ぽつ、と言葉が落ちる。


「だからさ。あの親父みたいに、何十年も“ここにいる”って選んだ人間、俺はずっとすげぇと思ってた」


「でも同時にさ――怖ぇんだよ」


その言葉は、本当に小さかった。


「“ここにいる”って決めた瞬間、なんか俺じゃなくなんねぇかなって」


笑ってごまかそうとする顔。

でも笑いきれない。



サーヤは少しだけ息を飲む。


(レオンは「逃げてる」んじゃないんだな。

 ただ――“居場所を持つ痛み”を、ちゃんと知ってる人なんだ)


立ち止まらないで、前を向いたまま言う。

「……ねぇ、レオン」


軽く肩をぶつける。

「いいじゃない?それ」


レオン

「は?」


サーヤは、少しだけ優しい声になる。


「親方は、“ここしか知らないからここにいる”んじゃないんじゃない?

“ここを大事にしたい”って決めた人なのかも。

あなたは決められないって言うけど

でもそれって、“自由が好きな人”って意味でしょ?」


「どっちもカッコいいじゃない」


レオンはぽかんとして、それから鼻で笑う。

「お前、簡単に言うなぁ」


サーヤは足を止める。

朝の光が店並みに差し込んで、風が柔らかい。


「でもね――“帰る”って、

ひとつじゃなくていいと思う」


レオン

「?」


サーヤはゆっくり言葉を紡ぐ。


「旅人にもさ、

“おかえり”って言ってくれる昼も夜も開いてる店。

定住する人には“今日もいるね”って笑ってくれる場所……そんな店があったら、それって、素敵じゃない?」


「“居場所がない人が、胸張ってただいまが言える場所”」


「それ、ちょっと……いいな。

ただいま、なんてしばらく言ってない。」


最後の言葉は少し照れくさくて、小さくなった。


レオンはしばらく何も言わなかった。


歩く音だけが響く。

やがて。

「…………反則だろ、お前」


そして笑った。


「そんなこと言われたらよ……

ちょっと守りたくなるじゃねぇか」


「あの親父の“昼の夢”も」

「お前の“これから”も」

「俺の、ふらふらの人生も」

「全部、悪くねぇって思っちまうだろ」



◆朝の光の中でサーヤも笑う。

「じゃあ――困ったね」


レオン

「だなぁ」


2人はまた歩き出す。


「とりあえず、やってみよっか」

「ああ、逃げずにな」


朝の街は少しずつ動き出す。


“たった今、誰かの未来に関わる旅が始まった”

そんな予感だけを、朝の光が連れてきていた

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