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第三章 scene4 相談

怒涛の祭り最終日。

ラストの一本が売れた瞬間――


「完売――!!」

「「「おおおおおお!!!!」」」


拍手。

笑い声。

煙。

疲労と、幸福感。


サーヤもレオンも、完全に燃え尽きた。


荷車を引いて帰る足もフラフラ。

居酒屋の暖簾が見えた瞬間、ふたり同時に、


「…ちょっと休ませて…」


中に入れば、温かい明かり。酒の匂い。

そして――居酒屋親父の声。


「おう、帰ってきたか。おつかれさん」


声はぶっきらぼうだけど、すでにふたりのためにテーブルが空けられていた。


積み上げた売上。

材料費を引いて。

仕込みに使わせてもらった厨房代を払ってでていくつもりだった。


レオン

「いやぁ、本当に助かった!

場所代、厨房代、ちゃんと払うからさ――」


親父。手を上げて止める。

「……いらねぇよ」


レオン

「え?」


サーヤ

「……?」


親父は椅子にどっかと座る。


「祭り……3日間、俺も顔出した」


沈黙。

サーヤ、背筋が伸びる。


「ただ旨いだけじゃなかった。いや、うまかったんだけど、行列ができても、イライラさせねぇ工夫。

子どもにも年寄りにも優しい声掛け。

何より――

食った奴が、笑ってた」


静かに、親父は言葉を続ける。

「お前らは“プロの売り方”をしてた」


ただの感謝でも称賛でもない。

“仕事を見ていた目”の言葉。


親父は酒を一口飲み、

まっすぐサーヤを見る。


「……サーヤ」

名前で呼ぶ。

ただの客でも助けた娘でもない、

“仕事仲間”としての呼び方。


一拍置いて――


「――この店の“昼”を、作ってくれないか」

空気が止まる。



昼は静かすぎる店。

客がいない時間。

誰も来ない扉。


夜だけで食える。

でも夜だけにしがみつくのが、怖い。


「俺はな……

ずっと“酒場の親父”で生きてきた」


酒と笑い。

喧嘩と涙。

失敗も成功も全部夜の中。


「……だけど、な」


少しだけ声が低くなる。

「最近、ふと思うようになったんだ」


この店のこれから。


もし、俺がいなくなったら?

もし、時代が変わったら?


扉を見つめる。


「この店を……

“夜だけの店”で終わらせたくねぇ」


「“昼でも愛される場所”にしたい」


「でも俺にはな……

“昼の店を作る腕”がねぇんだよ」


穏やかに笑う。

「――だから、頼みてぇ」


 「この店の昼の顔を一緒に作ってくれ」



サーヤの喉が熱くなる。


 

(スプーン亭は――

“過去を取り戻す”場所だった)


 

ここは――

“未来を作ろうとしている場所だ”。


 


レオンは隣でぽりぽり頭を掻きながら、

「……おい相棒。俺ら“旅人”だぞ?

ここで根張る話か……?」


と笑いながら言って――


親父が静かに続ける。



「旅は止めろとは言わねぇよ。

ただ――」


「“戻ってこられる場所”がある旅も、悪くないだろ?」


扉の外には、まだ祭りの名残の灯り。

扉の内には、温かい匂い。


サーヤ。

胸の奥で、何かが柔らかくほどける。

家を追い出されたわたしに、またひとつ帰る場所が増える。


親父は最後にこう締める。 


「レオンよ、もちろん金の話は、ちゃんとする」

「昼営業の道筋ができたら…ここはお前たちの拠点だ」

 

サーヤとレオン


見合わせて息を吸い――

頷く。

 

「……その相談、ちゃんと受けるわ」


 

次の章の火が――

静かに、確かに灯る。


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