第三章 scene2 繋がる
その街の祭りは、まさに熱狂の渦だった。
灯り。
音楽。
笑い声。
焼けた油の匂い。
中心広場の屋台通りは、ぎゅうぎゅうに人が詰まっている。そこへ――遅れて乱入した新参屋台。
「――カルツォーネです!!
焼きたて!!包みたて!!手持ちごはんです!!」
サーヤの声が、祭りの喧騒を切り裂いた。
最初は少しだけ視線が集まるだけ。
けれど――
ひとり、またひとり。
「これ、うまっ!」
「なにこれ、初めて食べた!」
「ちょっと!あんたも食べてみなって!!」
人は、噂に弱い。
気づけば大行列。
――ひたすら焼く。
――鉄板が悲鳴。
レオン
「おい!!列が伸びてんぞ!サーヤ!!」
サーヤ
「もう!分かってるわよ!!次いく!!」
親方仕込みの技術。
新作三種の絶対的安定力。
祭りの魔法。
そして――
サーヤの人生一発目の勝負運。
「――完売だ!!!」
最後の一つが売れた瞬間、屋台の空気がふっと軽くなる。
レオンはその場にへたり込んだ。
サーヤは汗を拭いながら、噛みしめるように笑う。
(売れた……!
ちゃんと、“受け入れられる味”になれたんだ……!)
そこへ、隣に店を構えていた屋台の兄ちゃんが、ガハハと笑いながら肩を叩いてくる。
「よぉ、やるじゃねぇか新入り!!」
「最初なんて普通、売れ残るもんだぞ!」
「明日からもよろしくな!!」
レオン
「明日……?」
兄ちゃん
「あぁ?なに言ってんだ」
「祭りは 3日間 だぞ!!」
サーヤとレオン
「「――――は?」」
あまりに衝撃的すぎる“祭り仕様”。
サーヤ
(3日!?3日フル稼働!?)
(……やだ……
めちゃくちゃ“勝負の舞台”じゃない!!!)
胸が高鳴る。
けど同時に。
――現実が殴ってくる。
仕込み場所、ない。
サーヤ
「……やば」
レオン
「……詰んだ?」
⸻ 夜。商会。
祭り帰りの人たちで、街全体が浮かれている。
だけど、その裏で商会の厨房は――戦場。
煙。
煮込み。
大忙しの料理人。
商会係員
「悪いね、嬢ちゃん……!
今日はどこも 厨房フル稼働 だよ!
二日目用の仕込みで、うちまでいっぱいなんだ!」
「明日の昼?無理無理無理!!」
サーヤ
(……そうだよね)
(みんな、“勝ちに来てる”んだもんね)
せっかく掴んだ“幸運の波”。
だけど、このままだと二日目、戦えない。
レオンが、歯を食いしばる。
「……くそ。せっかく掴んだのに」
サーヤは、唇を噛んで、それでも笑った。
「仕方ない。今日は勝ち、そこまでにしておこうか」
その時。
背後から声がした。
「――困ってるみたいだね、お嬢ちゃんたち」
振り返る。
そこにいたのは、昼間カルツォーネを食べて、
その場で幸せそうに泣いていた――大柄な男。
祭りの半纏を脱ぎ、今はただの町の人の顔。
男
「俺、酒場やっててな。昼は閉めてんだ。
……もしよかったら――」
「仕込み、うち使えよ」
レオン
「……は?」
サーヤ
「……え?」
は、照れくさそうに頭をかく。
「“泣きそうなくらいうめぇ飯”食わせてもらったんだ。ちょっとは力になりてえじゃねぇか」
「それによ――」
にっと笑う。
「二日目、三日目も食わせてもらいてぇんだよ。
あの味をな」
胸が、熱くなった。
“仕事の客”じゃない。
“金のための繋がり”じゃない。
これは間違いなく味で繋がった縁。
サーヤ
「……ありがとうございます!
絶対……いい仕事、しますね」
男
「期待してるぜ、パン屋の嬢ちゃん」
サーヤ、心の奥で静かに思う。
(――わたし、ここでも、人と繋がれる。
“私たちの料理”で)
無言でレオンと、拳を合わせた。




