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第二章 scene13 街外れの出会い

パン屋の仕事を終えた帰り道。

夕暮れ。風は少し冷たい。


サーヤは、空を見上げて大きく息を吐いた。

(……そろそろ、考えないとね)


パン屋の評判はどんどん広がっている。

客の会話の端々にも、


――“最近、あのパン屋すごいらしい”

――“柔らかいパンの娘がいるんだって”

――“天才だってさ”


そんな言葉が混じるようになっていた。


(……そのうち、父さんの耳にも入る)

胸がチクリと痛む。


(会いたくないわけじゃないのよ。

でも、“今のままの私”を見つかりたくない)


ただ逃げてる娘にも、ただ戻る娘にもなりたくない。


だったらちゃんと進んでる途中の私でいたい

だから、動く。

パン職人の仕事は好き。温かい。

居心地がいい。


でもここが「終点」じゃない。

そんなことを考えていたら、


――ガラガラガラ!!!


何かが激しくぶつかる音が聞こえた。

サーヤはびくっとして顔を上げる。


街の外れ。人通りも少ない道の先で。


大きな馬車――いや、

荷台付きのリヤカーのようなものが、

ドン、と道の真ん中で止まっていた。


木箱。

樽。

布袋。

鍋。

食器。


「……なにこれ、キャンプ用品店?」

思わずツッコミが出た。


いや違う。もっと生活感があって――

しかも、どこか懐かしい雰囲気。


リヤカーの横で、青年が頭を抱えていた。

青年は二十代半ばぐらい。焼けた肌。

外で働く人間の腕。


でも――顔は困り果てた犬のよう。

「うおおおおおお!!動けぇぇぇえ!!」


荷車を押す。びくともしない。


「……いや動くわけないでしょ」

思わず声が出た。


青年が振り返る。

「…………誰だお前」


「あんたこそ誰よ」


微妙に喧嘩腰のまま、目が合う。


サーヤは荷台を見た。

木箱の端には文字が刻まれている。


《旅する屋台 “空のスプーン”》


(……スプーン?)


心臓がきゅっとなる。


青年が、頭をかいた。

「俺は、移動食堂《空のスプーン》の店主、レオンだ。……で、今絶賛、馬に逃げられて困ってる」


「………………」


サーヤ、空を見る。

「……なんで馬、逃げるの」


「知らねぇよ……俺だって泣きたいよ……」


ガクッとへたり込むレオン。

荷車は傾き、少し壊れかけている。


そしてサーヤは――気づいた。


荷台の上に乗ってるのは、移動販売の全装備。


鍋。

調味料。

折りたたみ机。

看板。


(……移動販売)


 心が、きゅうっと引っ張られた。


 レオンがため息をついた。


「くそ……今日中に隣町に行く予定だったのに。

あーもう、どうすりゃいいんだよ……。

これ、動かせねぇと稼ぎもゼロだし……」


サーヤは、腕を組み考える。


——移動販売。

——旅する店。

——固定されない居場所。


 (……いいじゃない)


足が勝手に前に出た。


「ねぇ、壊れてるの、ここよね?」

荷台の横木を叩く。


レオンが驚く。

「分かるのか?」


サーヤはニヤッと笑った。


「舐めないで。

“壊れかけの生活用品”見るの慣れてるのよ」


レオン「何者だ、お前!!?」


サーヤはしゃがみ込み、荷台を確認する。

木を叩き、金具を触り、傾きを見る。


そして。

「――直せるわ」


レオン「マジで!?」


サーヤは立ち上がる。

「条件がある」


レオンがごくりと喉を鳴らす。

「……なんだ?」


サーヤはニッと笑った。

「――私を、その“移動食堂”、乗せて!」


風が、二人の間を通り抜ける。

空の色が変わり始める。

レオンは目を見開いた。


「は……?」


サーヤの目は真剣だった。


逃げるためじゃない。

捨てるためじゃない。


“進むため”。


「私、旅するわ。動く店で、動く人生、楽しそう!

……悪くないでしょ?」


青年はしばらく固まって――


そして。

ゆっくり、笑った。


「――おもしれぇ娘だな。

いいぜ。《空のスプーン》は変わり者を歓迎する」


こうして。

少女と、移動食堂の物語は――

静かに、動き始めた。

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