第一章 scene19 感動柔らかパン
厨房の明かりだけがぽつんと灯っている。
父さんはもう寝た。
だけどサーヤ(中身39歳主婦)は、机に肘をつきながら眉間を押さえていた。
このシチューには……パンだ
この国のパンは固すぎる。
スープに浸せば食べられるけど――
「“ふわふわのパン”が出せたら、それだけでこの店の武器になる」
そう確信してしまった。
問題はただ一つ。
(――酵母ってどうやって作るんだっけ?)
冷蔵庫もない。
ドライイーストもない。
ベーカリー機なんてもちろん無い。
主婦の脳みそが、フルスピードで回転を始める。
「確か昔…………天然酵母パン流行ったんだよね」
スマホ片手に検索してたあの頃の自分が脳裏に浮かぶ。今は、スマホはないけど、記憶はある。
(フルーツ……干しぶどう?
水と砂糖で瓶に入れて……毎日振って……ぷくぷくしたら成功……だっけ)
この世界にも果物はある。
干した果物もある。
いける、はず?
さらに思い出す。
(あと、小麦+水を何日か寝かせて空気中の酵母を育てるやつ……!でもそれは衛生面怖いし、管理難しいんだよね)
現代でも失敗率高い。
異世界じゃもっとシビアだ。
(だったら――一番成功率の高い方法で)
サーヤの中で答えが固まった。
フルーツ酵母を作ろう……!!
胸の奥が熱くなる。
パンの香り。
焼きたての湯気。
シチューと一緒に食べる瞬間の幸福。
(絶対に、この店で“あれ”を食べさせたい)
そう思ったらもう止まらなかった。
机に手を突いて、にやっと笑う。
「――主婦、なめんなよ」
その翌朝。
ハルト「サーヤ、なんで朝からそんなキラキラしてんだ?」
「父さん、果物と瓶を買いに行こう!」
「……またなんか考えてるな」
サーヤは胸を張った。
スプーン亭、パンでも勝つ!




