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第一章 scene1 目覚めたら、ここ何処?

――パン、と乾いた音がした。


何かが床に落ちた気がして、みのりは目を開けた。

やば!寝過ごした?


視界に広がるのは、見慣れた天井でも寝室の照明でもなかった。見慣れない木の梁。ざらざらした天井。

鼻をくすぐるのは洗剤の匂いじゃなくて、焼けたスープとパンの匂い。


(なに、これ?夢?……ここ、どこ?)


体を起こそうとして――みのりは固まった。


軽い。

体が、軽すぎる。


布団もやけにごわついているし、部屋も狭い。

天井が低くて、壁は石。窓の外から聞こえるのは車の音じゃなくて、馬の蹄と人の声。


「……なんで?」


声を出したつもりが、出てきたのは、自分じゃない――高い少女の声だった。


胸が、ぎゅっと掴まれる。


手を見る。

小さい。

指が短い。

日焼けして、少しだけ傷もある。


私……子ども……?誰?


喉が鳴る。

笑うしかないのか泣くべきなのか、どちらもできない。


――その時。


ガラッ!


勢いよく扉が開いた。


「おいサーヤ! ……起きてるか?」


低くて、不器用な男の声。


立っていたのは、見知らぬ男だった。

20代後半くらい、いや、30前後?

無精ヒゲ、腕は太く、エプロンの端にはスープの跡。


目つきは鋭いのに、言葉はやけに優しい。

「朝だ。……ほら、パン冷めちまうぞ」


(サーヤ……?)


みのり――いや、この体にいる「わたし」は、その名前を呼ばれたらしい。


男は少し言葉に詰まってから、視線を逸らした。

「……今日は、手伝わなくていいからな。

具合、まだよくないだろ?」


優しい声。ぎこちないのに、必死で気遣おうとしてくれている声。


胸がきゅっと締めつけられる。


知らない人。

知らない名前。

知らない世界。


――でも。

(……この人、泣きそうな顔してる)

気づいた瞬間、なぜか喉の奥が熱くなった。


みのりは口を開いた。

「大丈夫……起きる」


子どもの声で、そう言っていた。


男――ハルトは、少しだけ安堵した顔をして、短く笑った。


「そうか。……じゃあ、待ってる」


そして扉が閉まる。静寂。

みのりは、自分の胸に手を当てた。


早鐘みたいに打つ鼓動。

知らない家。

知らない名前。


いったいどういうことなの?

これって、いわゆる転生ってやつ?わたし死んだのかしら。

ここの生活、きっと簡単じゃなさそうだけど…


そう思った瞬間。

長年の“みのり”の主婦感覚が、どこかでカチリとスイッチが入る。


泣くのは、状況整理してから。

深く息を吸って、吐いた。


「――ほんとに、まったく何なのよ。これ」


だけど。

少しだけ、苦笑いした。


楽しそうじゃない?


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