第十一章 scene14 思考
サーヤは、カウンターに肘をついたまま、しばらく動かなかった。
考えろ。
前の世界で、ああいうタイプは、どう攻略したっけ?
……いたよね、山ほど、いた。
⸻
口がうまくて、頭も回って、自分を被害者の位置に置くのが異様に上手いやつ。
「分かってほしい」
「味方がほしい」
「一人にしないでほしい」
でも本当は、対等な仲間なんて探してない。
欲しいのは――
・自分を肯定してくれる人間
・責任を分散できる場所
・失敗したときに、巻き込める誰か
だよね。
サーヤは、小さく息を吐いた。
(攻略、って言葉がもう違うかも)
ああいうタイプは、「説得」も「論破」も意味がない。絶対に納得なんてしない。理解もしない。
するのは、“利用できるかどうか”の判定だけ。
⸻
何が効いたっけ?
正論は無意味だったし、感情はむしろ餌だった。
共感は最短で食い物にされ飲み込まれた。
だから、曖昧にせず、同情しすぎない。
でも、敵にもならない。
「あなたの話は聞くけど、あなたの土俵には立たない」
前の世界で、一番うまくいった対処法は、
“価値を渡さないこと”。
「ここに来ても、何も得られない」
「なんのメリットもない」そう悟らせること。
でも同時に、
「敵対もしない」
「排除もしない」
「騒がない」
すると、ああいう人間は――
必ず、別の“うまそうな場所”を探しに行く。
⸻
サーヤは、カウンターの上を指でなぞる。
(だから、ここを絶対に変えちゃだめだ)
仲間にも拠点にもさせないことで、ここは
コーヒーを飲む場所であることに徹して、
それでも、さらにしつこいタイプなら、次は一人で抱えない。
クルスとテッド。
レオン。
騎士団。
「変な客が来た」
「こういう言い回しをした」
「こういう反応だった」
事実だけを、淡々と仲間に共有しよう。
⸻
サーヤは、静かに立ち上がった。
攻略じゃなくて、単に消耗しない付き合い方をしよう。前の世界で身につけた、数少ない、生き延びる技。
更生?…違う
ああいうのは、誰かに正されて変わるタイプじゃない。
「分かってもらえなかった」
「理解されなかった」
そうやって、被害者の物語を更新するだけだ。
とっちめる?…それも、違う。
面倒だし、意味がない。
正面から潰すと、逆恨みされて、騒がれる。
コスパが、最悪。
答えは、前の世界で何度も見たやつだ。
自滅。しかも、こちらが手を下さずに、本人が「選び続けた結果」として。
自分は賢いと思っていて、でも、孤独に耐えられない
支配できない関係は、すぐ飽きる人たち。
彼らはうまくいかないと焦る。
そうなると、必ずやることは、条件を緩める、相手を選ばず、リスクを先送りにして、今回は大丈夫、を増やす
⸻
(この世界は、遅い)
情報が遅い。
噂が遅い。
判断が遅い。
でもだからこそ、ごまかしが効かない。
(前の世界なら、炎上で終わった)
(ここでは……捕まるか、全て失う)
サーヤは、静かに結論を出す。
確実に自滅させる
それが、
一番静かで、一番確実で、一番、後腐れがない。




