第十一章 scene4 独白
いつのまにか、
よくわからない世界にいた。
目を覚ましたとき、
剣があって、
魔法らしきものがあって、
身分があって、
法律が、曖昧だった。
最初は、戸惑った。
文字はすぐに分かった。
言葉も通じる。けれど、常識が少しずつ違う。
「契約」が、軽い。
「責任」が、ぼやけている。
「誰が悪いか」を、はっきり決めない。
――ああ、なるほど。
そう思った。
ここは、“賢い者が勝つ世界”じゃない。
“考えない者が負ける世界”だ。
それに気づくまで、
そう時間はかからなかった。
⸻
前の世界では、もっと面倒だった。
法律は分厚く、
規制は多く、
誰もが疑っていた。
だから、仕組みを作る側は、
いつも一歩先を行かなければならなかった。
だから追い出された。
でも、ここでは違う。
人は、
「信じたいもの」を信じる。
役所の印。
貴族の名前。
それらがあれば、
疑う理由を、わざわざ探さない。
「合法だ」
「問題はない」
「みんなやっている」
その3つを並べるだけで、
人は、自分から足を踏み出す。
⸻
金が欲しいわけじゃない。
倍でも、3倍でも、
正直どうでもいい。
面白いのは、
人が“途中で降りられなくなる瞬間”だ。
最初は慎重だった人間が、
二度目、三度目と首を突っ込み、
いつのまにか、自分の方から守ろうとし始める。
「ここまで来たから」
「今さら引けない」
「俺は騙されていない」
その言葉が出たら、
もう、終わりだ。
⸻
この世界は、やさしい。
だからこそ、
残酷だ。
誰も、騙されたとは思わない。
失敗したのは、
自分の判断だと、自分で結論を出す。
――実に、都合がいい。
⸻
新しい領主は、若い。
理想もある。
だから、使いやすい。
「街を良くしたい」
「混乱を避けたい」
「信頼を大切にしたい」
どれも、悪くない言葉だ。
ただし。
そういう言葉を口にする者ほど、
裏で動く人間を必要とする。
表がきれいであればあるほど、
裏は、静かに汚せる。
⸻
気づく人間も、いるだろう。
勘のいい者。
経験のある者。
前の世界の匂いを知っている者。
そういう人間は、面倒だ。
だが――
数は、少ない。
そして、大抵は、声を上げない。
「巻き込まれたくない」
「証拠がない」
「自分の立場じゃない」
そうやって、黙る。
それで、十分だ。
⸻
ここは、いい世界だ。
壊す必要はない。
ただ、
少し傾けるだけでいい。
気づかれない程度に。
戻れない程度に。
それだけで、
人は、勝手に落ちていく。
――前の世界より、
ずっと、簡単だ。
⸻
さて。
次は、どこまで行けるかな。
この祝賀の灯りは、まだ消えない。
人々は、新しい時代を信じている。
その足元で、静かに、仕組みは回り続ける。
誰かが気づくまで。
あるいは――
気づいても、止められないところまで。




