第十一章 scene16 二日酔い
翌朝。
カフェは、いつも通りの時間に開いた。
パンの焼ける匂い。
コーヒーの最初の一杯。
――ただし。
「……」
サーヤは、カウンターの向こうを見て、眉をひそめた。
レオンが、椅子に座っている。
いつもより背中が丸い。
腕を組んで、目を閉じている。
(……あれ?)
「レオン?」
「……んー」
返事はしたが、目は開かない。
サーヤは、すぐに察した。
(二日酔いね)
それも、そこそこ重いやつ。
「……珍しい」
思わず、ぽつり。
レオンは、片目だけ開けた。
「うるせぇ……」
「そんなに呑むなんて、ほんと珍しいわよ」
「昨日、なにしてたの?」
「……飲み会」
「聞いてない」
「言ってねぇ」
サーヤは、呆れたように笑いながら、コーヒーを淹れる。
(まあ、いいけど)
そこへ。
チリン。
扉の鈴。
サーヤが顔を上げると――
ルカとガルム。
……ただし。
二人とも、明らかに動きが鈍い。
ルカは、いつもの姿勢を保とうとしているが、肩が少し重い。ガルムは、無言で椅子に座り、深く息を吐いた。
サーヤ
「……あれ?」
ルカ
「……おはようございます」
声が、少し低い。
ガルム
「……水、もらえるか」
サーヤは、ゆっくり瞬きをした。
(え?)
視線を、レオンへ。
レオンは、ふっと鼻で笑った。
「……あー」
サーヤ
「レーオーン?」
低めの声。
危険なトーン。
「……どういうこと?」
レオンは、目を閉じたまま言った。
「いいだろ」
サーヤ
「なにが」
「俺にも」
「友達は必要だ」
沈黙。
ルカとガルムは、視線を逸らした。
完全に、現行犯。
サーヤは、しばらく3人を見比べてから、ため息をついた。
「……コーヒー、濃いめにするわよ」
ガルム
「助かる」
ルカ
「……お願いします」
カップを並べながら、サーヤは言う。
「…3人で?」
レオン
「2人と思ってたら」
「気づいたら3人だった」
「なにそれ」
ガルムが、ぽつり。
「……楽しかった」
ルカ
「……はい」
その一言で、だいたい察した。
サーヤは、コーヒーを出し終える。
3人とも、無言で一口。
しばらくして。
ルカが、申し訳なさそうに言った。
「……昨日は」
「遅くまで、すみませんでした」
サーヤ
「?」
「レオンを……連れ回してしまって」
レオン
「言い方」
ガルム
「事実だろ」
「うるせぇ」
サーヤは、吹き出した。
「なにそれ」
「中学生みたい」
レオンが、目を細める。
「……言うな」
サーヤは、くすくす笑いながら言った。
「でも、いいじゃない」
3人が、同時に顔を上げる。
「友達」
サーヤは、自然に続けた。
「できたなら」
レオンは、少しだけ照れたように、鼻を鳴らした。
「……だろ」
ルカは、コーヒーを見つめながら、静かに言う。
「……また」
「レオンと呑んでもいいですか」
サーヤは、いつも通りの笑顔で答えた。
「もちろん」
「ただし」
「次は、ほどほどにね」
ガルム
「努力する」
レオン
「信用ならねぇな」
サーヤ
「同感」
朝のカフェに、笑い声が戻る。
二日酔いの朝は、
少しだけ苦くて、
でも――
なんだか、悪くなかった。




