第十一章 プロローグ
カウンターの端で、レオンはまた腕を組んでいた。
新しく作った泡立て器が、そこに置いてある。
歯車の噛み合わせも、回転も、問題ない。
問題ない、はずだった。
うん、いい出来。
だが、完成してしまうと納得のような物足りないような達成感と喪失感が入り混じる。
レオンは、少しだけ居心地が悪かった。
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キッチンの奥から、サーヤの声。
「ねえ、レオン」
「ちょっと来て」
「忙しい」
「泡立て器のお礼」
その一言で、椅子から立ち上がる。
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出された皿の上には、茶色い塊。
形は、まあまあ。
端は少し欠けている。
「……なにこれ」
「チョコパイ」
レオンは眉をひそめる。
「パイ?」
「焼いた」
「挟んだ」
「溶かした」
「冷やした」
説明が雑だ。
一口、かじる。
もう一口。
無言。
サーヤが様子をうかがう。
「……失敗?」
「いや」
レオンは皿を見つめたまま言う。
「成功しすぎ」
サーヤ
「なにそれ」
レオン
「なんで今まで思い出さなかったんだろって味」
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少し間を置いて、レオンが言う。
「これさ」
「明日もある?」
「あるよ」
「……じゃあ」
「泡立て器、もう一段階改良する」
サーヤ
「なんで?」
「チョコ、もっと軽くできる」
サーヤは吹き出した。
「関係ないでしょ!」
レオンは、少しだけ照れたように視線をそらす。
「いや」
「関係ある」
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その夜。
泡立て器は、棚の一番上に戻された。
もう、ただの道具じゃない。
誰かの腕を楽にして、
その代わりに、甘いものが返ってきた。
レオンは、作業台に肘をついて、ぽつりと呟く。
「……悪くないな」




