第九章 scene20 学び
プレオープンの朝。
まだ街が完全に目を覚ます前、屋台の前に人影があった。
リオとカイだ。
いつもより早い。
眠そうなのに、ちゃんと身支度をしている。
サーヤが気づいて声をかけた。
「おはよう」
「早いね」
リオ
「……落ち着かなくて」
カイ
「寝た気、しなかったです」
サーヤは、少し笑って言った。
「そりゃそうよね」
「今日、初日だもん」
エプロンを渡しながら、ぽん、と二人の肩を叩く。
「ありがとね」
「特別ボーナス出すからね」
リオとカイ
「……ほんと?」
サーヤ
「あ!クルテッドからね。
わたしもボーナスもらおう」
二人の顔が、ぱっと明るくなる。
レオンが
「俺もきっちりもらってやる」と参加する
⸻
昼前。
まだ「プレ」のはずなのに。
屋台の前には、すでに人だかりができていた。
「何だあれ、新しい店か?」
「いい匂いするぞ」
サーヤ
「……早すぎない?」
テッド
「やばいな」
クルス
「想定より三時間早い」
レオン
「……始めるぞ」
⸻
そこからは、てんやわんやだった。
焼く。
包む。
渡す。
次。
ポテトが足りない。
油を足す。
ドリンク!
コップ!
リオ
「次、3つです!」
カイ
「ポテトだします!」
声が重なる。
汗が落ちる。
途中。
カフェの常連が、屋台を覗き込んで言った。
「なぁ」
「これ、イベントだろ?」
サーヤ
「……違いますよ」
「じゃあ、手伝うか」
「神!」
いつの間にか、コップを洗う人、
列を整理する人、声をかける人。
「ほら、こっち並べ」
「子ども先な」
「焼けたぞ!」
屋台が、街の一部みたいになっていく。
⸻
夕方。
——売り切れ。
テッド
「……終わった」
クルス
「……終わったな」
レオン
「……想定以上だ」
全員、無言で頷く。
⸻
そのまま、全員、カフェになだれ込む。
椅子に座る。床に座る。
カウンターにもたれる。
サーヤ
「……やばかった」
リオ
「……やばかったです」
テッド
「楽しかったな」
クルス
「死ぬかと思った」
レオン
「両方だな」
⸻
少し間を置いて。
カイが、ぽつりと言った。
「……俺」
全員が見る。
カイ
「しばらくクルテッド、手伝いたいです」
一瞬、静かになる。
カイは、照れたように続ける。
「……前に」
「ハンバーガー屋でアルバイト、してみたかったんです」
「今日それができた気がして」
サーヤとレオンは、顔を見合わせた。
——お互いうるっと親の顔。
サーヤ
「……そっか」
レオン
「……なるほどな」
サーヤ
「じゃあ、こうしない?」
「週に3日、忙しい曜日にクルテッド」
レオン
「残り2日は、こっち」
サーヤ
「カフェもね、あなたがいないと困るの」
レオン
「……様子も聞きたいし」
少し照れたように。
「コーヒー淹れるのも、まだ教えきってない」
カイ
「……はい」
⸻
その横で。
リオが、少しだけ不安そうにカイを見る。
「……大丈夫なの?」
「離れて」
カイは、笑った。さっきより、少しだけ大人の顔で。
「大丈夫」
「ちゃんとやれる」
サーヤは、そのやりとりを見て、
胸の奥が、きゅっとするのを感じた。
(……ほんとに、親みたいな気持ちだな)
ほんのり静かになったその空気を、クルスが破った。
クルス
「カイ、ありがとうな。本当に助かるよ」
カイ
「……いえ」
クルス
「リオも、準備から今日までありがとな。おまえらいなかったらたぶん詰んでた」
リオ
「わたしはお手伝いできてとっても楽しかったです!」
クルス
「……サーヤ」
「レオン」
2人を見る。
いつもの軽さは、少しだけ影を潜めている。
「2人に、頼みがある」
サーヤ
「……なに?」
クルス
「オープンから一週間でいい」
「レオン、屋台手伝ってもらえないか」
「今日ほどじゃないにしても」
「……たぶん、やばい」
レオンは、考える間もなく言った。
「……あぁ、確かに、やばそうだな」
「最初が一番大事だろ」
クルス
「あぁ、そうだと思う」
サーヤは、ため息混じりに笑った。
「……まぁ、放っておく気もないけどね」
クルスの顔が、少しだけほっとする。
⸻
クルスは、もう一度、背筋を伸ばした。
「それと、サーヤ」
サーヤ
「うん?」
クルス
「……帳簿の付け方を俺に教えてくれ」
一瞬、サーヤが目を丸くする。
「ちゃんとやりたい。次に繋げたい」
「カイにもちゃんと、給料払いたい」
その言葉に、店の空気が、ふっと柔らぐ。
サーヤ
「……もう」
「なんで、そんな大事なとこだけ真面目なのよ」
クルス
「そこ大事だろ」
⸻
その横で。
リオが、ぴしっと手を挙げた。
リオ
「……あの」
全員が見る。
リオ
「わたしも!わたしにも帳簿、教えてほしいです」
サーヤ
「……え?」
リオ
「もっと役に立ちたいし、将来、困らないようにしたい」
サーヤの目が、じわっと潤む。
「…もう…ちょっと待って」
「いい子すぎない?」
クルス
「だろ?」
テッド
「泣くとこか?」
サーヤ
「泣くとこよ!」
⸻
レオンが、腕を組んでテッドを見る。
「…で…お前は?」
テッド
「ん?」
レオン
「なんか学びとかないの?」
テッドは、胸を張った。
「俺は…. 応援担当です!」
間。
サーヤ
「……なにそれ」
テッド
「だって、みんな頑張るなら応援も必要だろ?」
レオン
「……却下」
⸻
笑いが起きる。
でも、その中に、
ちゃんとした「覚悟」が混ざっていた。
サーヤは、2人の帳簿用のノートを取り出しながら言った。
「じゃあ」
「明日からね」
「帳簿、屋台もカフェも」
「一緒にやろう」
リオ
「はい!」
クルス
「頼む」
レオン
「……忙しくなるな」
サーヤ
「えぇ」
「でも」
カウンターの向こうを見る。
疲れた顔。でも、どこか誇らしげな顔。
「悪くないでしょ」




