第九章 scene18 超特急
翌日の昼過ぎ。
昼のピークを少し越えたカフェは、まだ人の出入りはあるものの、朝ほどの慌ただしさはなかった。
カウンターの上には、
見慣れない素材が山ほど並んでいた。
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サーヤは、エプロンの紐を結び直した。
「よし」
「じゃ、今日は“本気の試作日”ね」
テッド
「待ってました!」
リオは、ノートを抱えて立っている。
昨日の夜から、何度も書き直した跡が見える。
リオ
「これが……ポテトの切り方、三種類です」
サーヤ
「おぉ、真面目!」
テッド
「俺、太く切る派!」
サーヤ
「却下」
テッド
「早い!」
⸻
キッチンでは、揚げ音、焼き音、炭酸の弾ける音が重なり始める。
ポテト。
バンズ。
ソース。
白いソーダ。
コーラ。
「はい、試食お願いしまーす」
サーヤが声をかけると、常連たちが、面白がって集まってくる。
「なんだ今日は」
「新メニューか?」
サーヤ
「そうなの!」
「実験台、募集中!」
ひとりがポテトをつまむ。
「……あ、これいい」
別の客が言う。
「こっちは、ちょっと油っこいな」
テッド
「メモ!メモ!!今の、どっち!?」
リオは、必死に書き留める。
「……はい、こっちです」
⸻
一方、その頃 港の方では。
木材が、地面に並べられていた。
レオンは、腕を組んで眺めている。
隣には、カイ。
カイ
「……屋台って思ってたより、大きいですね!」
レオン
「そりゃそうだ。“店”の一歩手前だからな」
トン、と木を叩く。
「これは軽く見えるが、雑に組むと揺れるし、
最悪倒れちまう」
カイ
「……はい」
レオンは、金槌を渡した。
「体力仕事はできると言ってたな。頼りにするぞ」
「でも怪我には気をつけろよ」
カイは、少し緊張しながら受け取る。
ずし、と重みが手に伝わる。
「……重い」
レオン
「仕事はな、だいたい思ったより重いんだ」
カイは、小さく笑った。
「……はい」
⸻
クルスは、その頃。
港の管理所で、頭を下げていた。
「はい」
「えぇ」
「はい、火は使います」
「水も、必要です」
紙を渡され、受け取り、また説明を聞く。
(…こりゃ…面倒だな)
でも、昨日の夜の会議が、頭をよぎる。
(俺がここを越えなきゃ、“店”には、なれない
クルスは、もう一度、背筋を伸ばした。
⸻
夕方前。
サーヤ
「……だいぶ、絞れたね」
テッド
「あぁ、これなら俺でも出来そうだな」
リオ
「……あの、この白いソーダ」
「あと少しだけ、酸味足すの、どうですか?」
サーヤ
「……やってみよ」
試して、飲んで。
サーヤは、ふっと笑った。
「いい!これ、“夏の顔”してる」
リオの目が、ぱっと明るくなる。
⸻
その頃、港。
屋台の骨組みが、形になり始めていた。
カイは、汗だくで木を押さえている。
レオンが、最後の釘を打つ。
カン、カン、と音が響いて、一瞬、静かになる。
レオン
「……よし」
カイ
「……立ってますね」
レオン
「あぁ」
少し間を置いて。クルスが合流。
「おぉ!すげぇ。できてる。2人ともありがたいっす」
カイは、その一言に、胸の奥が、じんと熱くなった。
⸻
夕方。
港の端に立つ屋台の前に、集まる。
最後に現れたサーヤは、両手に袋を提げていた。
「お待たせ」
「決定メニュー、持ってきたよ」
リオとテッドが続く。
テッドは紙包みを山ほど抱え、
リオはドリンク用の瓶を大事そうに抱えている。
「うわ」
「もう匂いが反則」
クルスが、思わず言った。
⸻
屋台のカウンターに並べられる。
・定番バーガー
・港のピリ辛バーガー
・チキンテリヤキ
・ポテト
・白いソーダ
・コーラ
まだ正式な看板もない。
でも、並んだ瞬間に「店」だった。
レオン
「……食うか」
全員、頷く。
⸻
一口目。
テッド
「……やば」
「屋台で食ったら、さっきよりうまい!」
サーヤ
「ほんと、それ!最高じゃん」
リオ
「……ポテト。外で食べると、全然違いますね」
カイは、黙って食べていたが、ふと顔を上げた。
「……これ、ここで売るんですよね、すごい!」
レオンは、屋台を見上げる。
まだ新しい木の匂い。
「……あぁ」
⸻
そのとき。
「……なにこれ?」
「いい匂いする」
通りすがりの男が、足を止める。
その後ろに、もう一人。
さらにもう一人。
クルス
「……あ」
テッド
「……見てるな」
サーヤ
「……見てるね」
リオが、小さく言う。
「……集まってきてます」
⸻
クルスは、慌てて言った。
「いや、まだ売らねぇからな!」
「今日は試作だから!」
男
「なんだ、食えないのか」
テッド
「……そのうちな!」
その瞬間。
テッドは、にやっと笑って、言ってしまった。
「3日後!」
「3日後に、プレオープンな!」
⸻——沈黙。
サーヤ
「……は?」
リオ
「……え?」
カイ
「……3日後?」
レオン
「……テッド」
クルス
「お前、今なんて言った」
テッド
「え?いや、ほら」
「勢い?」
サーヤ
「勢いで店は開かない!」
⸻
一気に現実が押し寄せる。
サーヤ
「材料の仕入れ!」
「仕込み場所!」
「ポテトの量!」
リオ
「ドリンクの瓶、全然足りません!」
カイ
「コップも……今、数、そんなないです!」
レオン
「火の確認」
「水の動線」
「ゴミ、どうする」
クルス
「許可は………ギリギリ、出た!」
全員
「ギリギリ!?」
⸻
サーヤは、一度、深呼吸した。
「…よ、…よし。3日、ある」
レオン
「短い」
サーヤ
「でも3日“も”ある?」
リオの目が、きらっとする。
「……やれますよね」
カイも、拳をぎゅっと握る。
「……やりたいです」
テッド
「ほらほらほら!」
「若いのがやる気だ!」
クルス
「……逃げられねぇな」
レオンは、屋台を見てから、言った。
「……じゃあやること、もう一回整理だ」
サーヤ
「はい、隊長」
レオン
「呼ぶな」
⸻
港の風が吹く。
屋台の木が、きし、と鳴る。
まだ未完成すぎる始まり。




