第九章 scene16 作戦会議
早めに閉めたカフェ。
看板を裏返し、椅子を上げ終わる。
昼間のざわめきが嘘みたいに、店内は静かだった。
床を拭きながら、サーヤはふと手を止める。
カウンターの向こうで、リオとカイが小声で何か話している。
リオは、いつもより少しだけ声が低くて、
カイは、さっきから何度も入口の方を気にしている。
(……あの子たち)
(今日は、家に帰るの、ちょっと不安かもしれないな)
サーヤは、それ以上考えないことにした。
考えすぎると、口に出してしまいそうだから。
「……なんか、楽しいことでもしよっかな」
独り言みたいに呟いた、そのとき。
⸻
扉の鈴が、
いつもより乱暴に鳴った。
「助けてくれぇぇぇ!」
聞き覚えのありすぎる声。
サーヤ
「……え?」
入ってきたのは、汗だくのクルスとテッドだった。
テッド
「もう無理!腕もげる!」
クルス
「焼いても焼いても終わんねぇ!」
リオとカイが、同時に目を丸くする。
サーヤは一瞬きょとんとしてから、息を吐いた。
そして、いつもの調子で言う。
「……久しぶり」
「で、どうしたの?」
クルスが肩で息をしながら答える。
「ハンバーガーが」
「売れて売れて」
「大変なんだ」
テッド
「旅に出るつもりだったのにさ」
「街を出る前に、全部売り切れ!」
サーヤ
「……それ、完全に成功してるやつじゃん」
クルス
「だから助けて」
サーヤ
「雑!」
⸻
カウンターの奥から、レオンが顔を上げる。
レオン
「……また面倒ごとか?」
リオとカイは、状況がわからず、そっと顔を見合わせる。
リオ
「……誰、ですか?」
テッドが思い出したように紙袋を持ち上げた。
「そうだ」
「とりあえず、これ」
どん、と置かれた包みから、
焼きたての匂いが広がる。
⸻
結果。
リオとカイは、テーブルに並んで、この世界で
初めてのハンバーガーを手にしていた。
テッド
「な?うまいだろ?」
リオは慎重に一口。
目が、少しだけ見開く。
「……おいしい」
「なんか……懐かしい」
カイは、黙々と食べている。
クルス
「だろ?」
テッドが、ふと二人を見て首を傾げた。
「……で?」
「お前ら、誰?」
リオ
「……リオです」
「ここで、働いてます」
カイ
「……カイです、弟です」
クルス
「……働いてる?」
テッド
「ここで?」
サーヤ
「そう」
テッドが、にやっと笑う。
「いいじゃん」
「若手」
クルス
「あのさ、俺たち港に店出そうと思ってて──」
サーヤ
「ちょっとちょっとちょっと!」
テッド
「なに?」
サーヤ
「引き抜き禁止!」
クルス
「まだ何も言ってねぇ!」
⸻
その様子を見ながら、
サーヤはちらりとリオとカイを見る。
二人とも、ちゃんと笑っている。
でも、どこか「今夜の話」を避けている顔だ。
(……やっぱり)
サーヤは、決めた。
レオンがコーヒーを一口飲んで言う。
「……で、何が問題だ」
クルスとテッド
「全部だな」
サーヤは、少しだけ口角を上げる。
「……でしょうね」
レオン
「……嫌な予感しかしない」
⸻
サーヤは、リオとカイに向き直る。
「ねぇ」
「今日はさ」
一拍。
「もうちょっと、ここにいようか。
作戦会議があるの」
理由は、言わない。
帰らなくていいとも、泊まれとも言わない。
リオは、少し迷ってから頷いた。
「……はい」
カイも、小さく頷く。
レオンが、ぼそっと言う。
「……今日は長くなるな」
サーヤ
「うん」
それでいい。
カフェの灯りは、
その夜、いつもより少しだけ遅くまで点いていた。




