第一章 scene12 ダメ出し会議
夜。
厨房の片隅に灯るランタンの光が、木の机を淡く照らしていた。
帳面を中心に、父と娘が向かい合う。
「――で、まずはここから直したい」
サーヤは指を動かしながら、淡々と言葉を置いていく。
「店の内装、暗いし古いまま。
皿は欠けてるし、色も統一感ない。
あと厨房の導線、最悪。父さん、毎日無駄な動きしてる。メニューも昔のままで今の店の客に合わせてないよね」
カン、カン、と炭筆が机を叩くたびに。
ハルトの表情から、少しずつ血の気が引いていく。
「……お前なぁ……」
苦笑いじゃない。
完全に刺さっている笑顔だ。
サーヤは止まらない。
「今のままじゃ、新しいお客さんは来ない。
来たとしても“昔の思い出”で食べに来る人だけじゃん」
言った瞬間――
音が消えた。
ハルトの拳が、机の下でぎゅっと握られる。
「……そんなこと、言わなくても分かってるよ」
低い声。
顔は笑っている。
笑っているのに、痛い。
「分かってる。でもなぁ……分かってても、どうにもできなかったんだよ」
かすれた声だった。
「一人だと……できることって、減っていくんだ。
昔できたことも、だんだん“いつか”に先延ばしになって……気づいたら、“今さら”になってた」
そしてぽつり。
「……そんなに駄目か、この店」
胸が、ぎゅっと締め付けられた。
サーヤは、ハッとして口をつぐむ。
正論は、ときどき刃物になる。
わたしは、店の未来を見ていた。
でも、父さんは“今まで守ってきた時間”で生きている。
サーヤはゆっくり息を吸った。
「……ごめん。言い方、悪かった」
その声は、ちゃんと子どもの声だった。
ハルトは俯いたまま、かすかに笑う。
「いや……いい。本当のことだからな。
――痛いけど」
でも。
次の瞬間、ハルトは顔を上げた。
「それでも、お前が一緒にやってくれるならな」
その笑顔は弱くて。
でも確かに、“前を向いた顔”だった。
サーヤの胸が、じんわり熱くなる。
「うん……!」
だけど次の瞬間。
ハルトがぽつり。
「ただ、ちょっと今日は……刺さったな……」
サーヤ「」
ハルトは肩を落として、力なく笑った。
「酒、飲んでいいか?」
――ああ、これは完全にダメージだ。
サーヤは吹き出しそうになるのを堪えながら、
「……分かった。今日は、わたしがご飯つくる」
エプロンをぎゅっと握る。
父さんの料理をベースに新しい、美味しいを作ろう
こうしてその夜。
スプーン亭の小さな台所に、違う息遣いの包丁の音が響いた。




