第九章 scene11 居場所
夕方の客足が引いて、
カフェの灯りが、少しだけ落とされた時間。
姉の方が、ぽつりと話し出す。
女の子
「……今、住んでる家ね」
サーヤは、手を止めない。
カップを拭きながら、聞く。
女の子
「母しかいないの」
「すごくいい人で、ずっと頑張ってた」
メロン君は、黙ってテーブルの縁をなぞっている。
女の子
「でも最近」
「……新しい人が、できたみたいで」
「帰ってこない日が、増えた」
サーヤの手が、少しだけ止まる。
女の子
「悪い人じゃないと思う」
「でも……わたしたち、よく分からなくて」
声が、少し揺れる。
女の子
「数年前に、わたしたちは前の世界のこと突然思い出したの。受け入れられないけど、ここで幸せになれるように頑張ろうって2人で決めたんだけど」
メロン君が、顔を上げる。
「……どうしたらいいか、分からない」
⸻
サーヤは、椅子に腰かける。
目線を合わせる。
サーヤ
「……うん」
それだけ。
一度、息を吸ってから言う。
「じゃあさ」
「一個ずつ、やろうか」
姉が、首をかしげる。
「いきなり幸せとか」
「ちゃんとした答えとか」
「無理だから」
2人を見る。
サーヤ
「まずは」
「ちゃんと食べて」
「ちゃんと寝て」
「ちゃんと働く」
「できる?」
弟が、小さくうなずく。
姉も、少し遅れて。
⸻
サーヤ
「この店さ」
カウンターを軽く叩く。
「忙しいとき、ほんとに人が足りないの」
レオン
「おい」
サーヤ
「事実でしょ」
姉を見る。
サーヤ
「ここで働く?」
即答じゃない。
女の子
「……いいんですか」
サーヤ
「給料は多くない」
「楽でもない」
「逃げ場にもならない」
ちゃんと現実を言う。
「でも」
「経験にはなる」
「生活は、学べる」
「一人で生きる準備」
「二人で生きる練習」
⸻
弟が、姉を見る。
メロン君
「ねぇ」
「やってみようよ」
姉は、少しだけ目を伏せてから、顔を上げる。
女の子
「……お願いします」
サーヤは、立ち上がってエプロンを取る。
サーヤ
「じゃあ、まずは」
エプロンを差し出す。
「洗い物からね」
⸻
レオン
「……増えたな」
サーヤ
「なにが?」
レオン
「誰かの居場所」
サーヤは、少しだけ笑う。




