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第九章 scene9 プリンアラモード

昼下がり。


日差しはやわらかく、店内には、コーヒーの香りと、少し甘い空気が混じっていた。扉の鈴が鳴る。


「……いらっしゃいませ」


サーヤが顔を上げる。

入ってきたのは、二人連れだった。


先に足を踏み入れたのは、この前と同じメロン君。

少し背筋を伸ばしていて、今日は一人じゃない。


その後ろに、女の子がいた。


年は、少し上。落ち着いた服装で、

視線の動きが静かだ。


店内を見回すその目は、“初めて来た”というより、

確認しているようにも見えた。


メロン君は、女の子の方をちらっと振り返る。


「……ここだよ」


女の子は、小さく頷いた。

「うん」


二人は並んで席に着く。

メニューを開いたのは、メロン君の方が先だった。

迷わない。


指が、まっすぐ止まる。

《メロンクリームソーダ》


「これ、いい?」


女の子は、メニューを覗き込む。

一瞬だけ、視線がそこに落ちて――

ほんのわずか、目を細めた。


「……本当にあったんだ。好きだったもんね」


メロン君は、少し照れたように頷く。

「うん」


女の子は、もう一度メニューを見た。

ページをめくり、戻し、

最後に、ぽつりと言う。


「……あの」

「プリンアラモードって、できますか?」


サーヤの手が、止まる。

レオンは、何も言わない。

ただ、耳を澄ませている。


サーヤは、少しだけ考えるふりをしてから、

穏やかに答えた。


「プリンは……」

「このあたりじゃ、あんまり見かけないけど」


女の子は、急かさず待つ。

その表情には、落胆も、驚きもない。


サーヤは、続けた。


「チェリーは、今は、ないけど」

「それでも、いい?」


女の子は、一拍置いてから、微笑った。


「……ええ」

「それで、いいです」


その声は、どこか確信に近かった。


メロン君は、そのやりとりを聞きながら、

不思議そうに姉を見る。


「…姉ちゃん…チェリーって、そんな大事?」


女の子は、メロン君の方を見て、

ほんの少しだけ、柔らかく笑った。


「ううん」

「大事じゃない」


一瞬、間を置いて。


「今は、ね」


レオンは、何も言わずにグラスを用意し始めた。


翡翠色のシロップ。

炭酸。

白いアイス。


もう一方で、サーヤは

まだ見慣れない菓子の準備。


店内に、

説明されない理解が、静かに満ちていく。


男の子は、運ばれてきたメロンクリームソーダを見て、少し安心したように息を吐いた。


女の子は、少し遅れてきたほのあたたかいプリンアラモードを前に、ほんの一瞬だけ、目を伏せる。


まるで、

「やっと辿り着いた」とでも言うように。


サーヤは、その二人を見ながら思った。

——一緒に、来たんだろうな。


わかる。

放っておくべきかもしれない。

でもなんか放っておけない。


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