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第九章 scene1 帰る

玄関先。

障子が乱暴に開いて、冷たい夜風が流れ込む。


「女将!!」

その声と一緒に、ルカがサーヤの腕を引いて飛び込んできた。


ルカ

「見て!ほら!サーヤ!!」


女将が目を見開き、次の瞬間には歩み寄る。

サーヤの顔を、足元から肩まで、確かめるように見る。


女将

「……ほんとに……」


料理長も奥から顔を出す。

眉をひそめて、一言。


料理長

「無事か」


サーヤ

「……はい」


それだけで、十分だった。


女将はすぐに言う。

「立ち話じゃないわ」

「中、空いてるから」


ルカ

「ほらほら!早く!」

「話すのは中!!」


半ば押し込むように、

サーヤと、テッドと、クルスを引きずっていく。



柔らかい灯。

すでに卓が用意されている。


女将

「……さ、座って」


全員が腰を下ろした瞬間、

張り詰めていたものが、ふっと抜けた。


ルカ

「……はぁ……」


先に息を吐いたのは、ルカだった。


ルカ

「ほんとに、戻ってこないかと思った……」


サーヤ

「……ごめん」


ルカ

「いい!」

「いいから、もう!!」


料理長が、腕を組んだまま言う。

「……話は後だ」


自慢の料理を並べる。


料理長

「まず食え」


サーヤは、思わず笑った。


女将が、お茶を差し出す。

「温かいのよ」


サーヤは両手で受け取る。

湯気が、指先に触れる。


女将

「戻ってくるのか、って?」

「聞きたいけど――」


一拍。


女将

「それは、食べてから」


ルカが、サーヤを見る。

「……行くんでしょ」


サーヤ

「うん」


ルカ

「だと思った」


料理長が、短く言う。

「なら、今日は泊まれ」


ようやく空気が緩む。


サーヤは、深く息を吐いた。



最後のデザートが静かに並んでいる。

女将が、ふっと表情を緩めた。

「……で」


サーヤを見る。

「あなたがいない間の話、聞く?」


サーヤ

「聞きたいです」


ルカが身を乗り出す。

「もうね、すごかったんだから!」


料理長が、咳払いひとつ。

「……盛るな」


ルカ

「盛ってない!」



女将

「まず、湯上がりの一杯ね」


サーヤ

「……どうでした?」


料理長が短く答える。

「評判いい」


ルカ

「“選べるのが楽しい”って」

「あと、“名前がいい”って!」


サーヤ

「名前……」


女将

「ええ」

「味だけじゃなく、“どういう気持ちで飲むか”が伝わるって」



ルカ

「お土産もね!」


サーヤ

「……蒸しショコラと、シュワシュワのやつ?」


ルカ

「そうそう!」


女将

「立ち歩き用と、持ち帰り用」

「どっちも出してる」


料理長

「冷やして食う客も出てきた」

「……悪くない」


サーヤ

「……よかった」

深くうなずいた。

「……それなら、安心です」



その頃。


宿の外。夜風の中、

レオン、クルス、テッドは、

ルカに教えられた一角に来ていた。


古い路地。

灯りは少ないが、奥から金属音が聞こえる。


カン、カン。

ジジ……。


テッド

「……あやしくね?」


クルス

「魔道具工房なんて、だいたいこんなもんだ」


レオンは、扉の前で足を止めた。


木の看板。

文字は消えかけている。


——《応用魔導・試作工房》


中に入ると、

熱と、油と、魔力の匂いが混ざった空気。


棚には、見たことのない器具。

結晶。

管。

歯車。


職人風の男が、ちらっと顔を上げる。

「……客か?」


レオン

「相談があるんだ」


カメラと写真を、そっと差し出す。


「写す道具だが、必要なものはもう手に入らない」


男は、興味深そうにそれを見る。

「……ほう」


クルス

「似たようなもん、作れないかって話だ」


テッド

「俺は正直、よくわかってない」


男が、にやっと笑った。

「面白いの持ってきたな」


カメラを、光にかざす。

「これは……」

「“写す”より、“観測する”のか?」

レオンの目が、わずかに見開かれる。


「魔道具での代替で完全再現は無理だ」


一拍。


「でも、“この世界なりの写真とやら”なら、作れるかもしれん」


クルス

「……それで十分だ」


テッド

「お?」

「なんか、急にワクワクしてきたぞ」


レオンは、ゆっくり息を吐いた。

「……ありがとう」


扉の向こうで、

新しい歯車が、静かに噛み合い始めていた。



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