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第八章 scene15 カメラ

夕方。

カフェの客足が一段落して、

カウンターには使い終わったカップが並んでいる。


テッドとクルスは、相変わらず要領よくない手つきで片づけ中。


テッド

「なぁ、これ本当に洗えてるか?」


クルス

「泡は落ちてる」


テッド

「基準それ?」


サーヤは笑いながら、布巾を絞る。


そのとき。


レオンが、カウンターの奥で例のカメラをいじっていた。


古い金属音。

カチ、という空の音。


レオン

「……なぁ」


サーヤ

「ん?」


レオンは、カメラの裏蓋を開けたまま、

ちらっとサーヤを見る。


レオン

「フィルムってさ」


一拍。


レオン

「作れると思うか?」


テッド

「……は?」


クルス

「また始まったな」


サーヤは、一瞬だけ考えてから答える。


サーヤ

「……さあ」


少しだけ笑って。


サーヤ

「でも」

「作れなかったら、撮れないだけでしょ」


レオンは、ふっと息を吐いた。


レオン

「だよな」


カメラを閉じる。


サーヤ

「撮りたいの?」


レオン

「ああ」

「今の世界を」


テッド

「普通の理由で安心したわ」


クルス

「普通って言い方も怪しいけどな」


夕方の光が、カウンターを横切る。

サーヤは、カップを棚に戻しながら言った。


サーヤ

「じゃあさ」

「まずは豆を焼くみたいに、試してみたら?」


レオン

「……失敗したら?」


サーヤ

「写らないだけ」


レオンは、少しだけ笑った。




レオンは、カメラを布の上に置いたまま、しばらく動かなかった。夕方の光が、金属の角を淡く照らす。


クルスが、洗い終わったカップを逆さに伏せながら言う。

「……箱と穴、だな」


レオン

「ん?」


クルス

「ピンホール」

「箱があって、真っ暗で」

「小さい穴があれば、像は結ぶ」


テッド

「また知らん単語出た」


サーヤが、ぴっと顔を上げる。

「あ、それ」


レオンの目が、わずかに光る。

「…ピンホールカメラか…作れるか」


クルス

「箱ならある」

「穴は……針でいい」


テッド

「雑すぎだろ」


サーヤは、布巾を置いてカウンターに寄る。

「でも、いいんじゃない?」

「ちゃんと写らなくても」


レオン

「……」


サーヤ

「今の世界、完璧じゃなくていいでしょ」


一瞬の沈黙のあと、レオンが小さく笑った。

「……そうだな」


テッド

「で、誰が作るんだよ」


クルス

「俺とレオン」


テッド

「俺、いねぇ」


そのとき、サーヤがふと思い出したように言う。


「あ」


3人が見る。


サーヤ

「そういえばさ、温泉、行かなきゃ」


テッド

「……風呂?」


クルス

「この流れで?」


サーヤ

「ちがう!報告!戻りました、って」


レオン

「……あぁ、魔道具も、見てみたいな」


テッド

「え、なに?」


サーヤ

「あの温泉街、魔道具の街だよ」


テッド

「世界観に甘やかされてんな」


サーヤは、エプロンを外しながら言った。

「それにさ」


少しだけ、楽しそうに。

「湯気って、ピンホール向きだと思わない?」


レオンが、ふっと息を吐く。

「……確かに」


テッド

「もう何言ってんのかわかんねぇ」


クルス

「慣れろ」



カウンターの上に、使い終わったカップが静かに並ぶ。店内は片づき、夕方の気配が満ちている。

サーヤは、扉に手をかけて振り返った。


「じゃあ」

「みんなで行く?」


一瞬の間。


テッド

「……行く」


クルス

「行くな」


レオン

「……ああ」


鈴が鳴る。


次に写るのは、

湯気か、影か、失敗作か。


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