第八章 scene14 帰還
カフェに戻る。
豆の匂い。
床板のきしみ。
全部、元通り。
テッドは、椅子にどかっと座った。
テッド
「……で?」
一拍。
テッド
「どういうこと?」
クルス
「簡単に言うぞ」
テッド
「おう」
「わかりやすくな」
クルス
「世界がちょっとズレて」
「ヤバいやつが出てきて」
「サーヤが選んで」
「終わった」
テッド
「……短っ」
サーヤ
「でも、合ってる」
レオンが肩をすくめる。
レオン
「ハッピーエンドだな」
テッド
「は?」
クルス
「生きてる」
「追われてない」
サーヤ
「コーヒーも飲める」
レオン
「充分だろ」
テッドは、しばらく考えてから言った。
「……まぁ」
「それっぽいな」
一同、笑う
テッド
「で?」
「俺ら、これからどうすんの?」
サーヤは、エプロンを手に取る。
扉の鈴が鳴る。
「お!」
カウンターの向こうから、聞き慣れた声。
「サーヤちゃん、戻ったのか」
常連の男が新聞をたたみ、にやっと笑う。
その一言で、店の空気が“いつも”に戻る。
サーヤは、少しだけ照れた。
「……ただいま」
奥では、レオンが何も言わずに豆を挽き始めた。
ゴリ、ゴリ、と一定のリズム。
迷いのない手つき。
お湯を落とす。
湯気が立つ。
コーヒーの香りが、店いっぱいに広がった。
クルスが、その匂いを深く吸い込む。
「……なあ」
テッドも、身を乗り出す。
「俺たちも、コーヒー飲みたいんだけど」
レオン、カップを置きながら一言。
「客じゃないだろ」
サーヤが、即座に笑う。
「そうそう」
テッド
「え?」
サーヤ
「働かざる者、飲むべからず」
クルス
「理不尽だな」
テッド
「逃げて、走って、命張ったんだけど!?」
レオン、ちらっと二人を見る。
「じゃあ、その元気で」
エプロンを放る。
「皿洗い」
クルス
「……え、今から?」
テッド
「コーヒー一杯のために!?」
常連が、くくっと笑う。
「いいじゃねぇか」
「この店のコーヒーは、そう簡単には飲めねぇ」
サーヤはカウンターに肘をつき、
出来上がった一杯を見つめた。
サーヤはカップを手に取る。
「……おいしい」
レオンは、何も言わずに次の一杯を淹れ始めた。
店の外では、風鈴が鳴る。いつもの午後。
何も起きない、という贅沢。
テッドが、シンクの前でぼやく。
「なあ……」
クルス
「なんだ」
テッド
「結局、どういう話だったんだ?」
サーヤ
「またぁ?」
クルス、皿を洗いながら言う。
「簡単に言うぞ」
テッド
「おう、わかりやすくな」
クルス
「……生きてる場所で、生きるって決めた」
テッド
「……」
しばらく考えてから。
「……ま、それっぽいな」
サーヤとレオンが、同時に笑った。




