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第八章 scene11 minori

サーヤの指が、止まった。


手帳の最後のポケット。

紙より少し厚い、古い写真。


そっと引き抜く。

——時間が、静かにずれた。


モノクロに近い色合い。

でも、確かに“写真”だとわかる質感。


写っているのは、若い男女。

並んで立って、少し照れたように笑っている。


男性は、面影があった。

皺も、白髪もないけれど——

ボルト爺さんだ。


胸が、きゅっと縮む。

そして、隣の女性。


白いドレス。

花を手に、穏やかに笑う横顔。


サーヤの呼吸が、浅くなる。

写真の端に、手書きの文字。


minori


一瞬、音が消えた。


サーヤ

「……え?」


喉から、かすれた声が落ちる。


(……私?)


いや、違う。

文字の癖が、違う。

これは——ボルト爺さんの字だ。


奥さんの、名前。

minori。同じ、名前?


サーヤの手が、震え出す。

(……偶然?)


だって。

自分は——

その名前を、誰にも話していない。

前世のことも。

名前も。


レオンが、写真を見て、静かに息を吐いた。


サーヤ

「……レオン、これ……」


声が、うまく出ない。


レオン

「ボルトさんの奥さんだな」

「俺が知ってる限り、あの人の人生で一番大事な人」


テッドが、困ったように頭をかく。

「……なぁ」

「さすがに偶然って言うには、出来すぎてねぇか?」


クルスは、黙ったまま写真を見つめている。


サーヤの胸に、いくつもの感情が渦を巻く。


(……なんで)

(同じ名前なのね)


あの裏の刻印。

minori。わたしじゃない、奥さんの名前ら、


ボルト爺さんは、この名前を刻みながら、

何を思っていたんだろう。


レオンが、低く言う。


「……サーヤ」

「多分だけどな」


一拍。


「お前は、偶然ここに来たわけじゃない」


サーヤは、ゆっくり顔を上げた。


レオン

「ボルト爺さんさんは“思い出”としてじゃなく」

「“未来に渡すため”に」

「その時計を、minoriという名前をお前に預けた」


空気が、重く沈む。


サーヤは、写真をそっと胸に当てた。


——もう、

ただ逃げるだけの旅には戻れない。


この名前に。

この時計に。

この写真に。


意味がある限り。


サーヤは、静かに言った。


「これ、まだ全部じゃないよね」


レオンが、うなずく。


「……ああ」

「物語は、ここからが本編だ」


写真は、まだ語らない。


でも確かに、

サーヤを“次の選択”へ押し出していた。


——物語は、深いところまで来てしまった。





【レオンの考察】

 ボルト爺さん夫妻は 転生者 Type Aだな

 夫婦そろって転生し、お互いが**強い“錨”**になっていた。だからこの世界に安定して根付けた


いや、待て待て待て、そもそもここでいう錨ってなんだ?世界・時間・存在を「そこに留めるための基準点」てことだろ?錨は「人」じゃない。

**人・名前・役割・関係が重なった“一点”**だ。


⸻なぜ転生者に「錨」が必要なんだ?

転生者は本来、前の世界の記憶を持っている

でも今いる世界は別物で、時間も歴史も「連続していない」

つまり放っておくと、記憶がズレる

世界との接続が不安定になるのか?境目(世界の狭間)に引き寄せられる。これを防ぐために必要なのが 錨ということか。誰のための世界かはわからないけど。


考えられる錨の役割は、3つ?

・世界への固定点

「私は この世界のここに存在している」

という証明。

人、場所、役割、名前

どれか一つでも強く結びついていれば、安定する


・選択の基準

錨は 進路を決める指針でもある。

前の世界に戻るか、今の世界に留まるか、境目を壊すか、閉じるか。

錨があるから「選べる」

錨がなければ、流されるだけ


・ 観測点あるいは交差点

錨を持つ存在は、その場所で

世界がズレたとき、境界が開いたとき

その 揺れを感じ取れる。


だから狙われる。


じゃあ、転生者一人ひとりに錨がいる?


ボルト爺さんの錨→ 奥さん(minori)

奥さんの錨はおそらく爺さん

同じ転生者、人生を共にした

観測点に居続けた

だから彼は安定していた。



俺の錨は、サーヤか。

だから出会って、俺は安定した。


じゃあ、サーヤの錨は?

サーヤは最初、錨を 持っていなかった


爺さんの錨minoriがいなくなって、爺さんは不安定になった。揺らいだ世界が、サーヤを錨として呼んだ


サーヤは「留まる理由」を、まだ選んでいなかった。

この世界での家族も役割も薄い

旅人で流動的、観測点に流れ着いた


だから選ばれた。


つまり奥さん(minori)は、ボルト爺さんにとっての“世界につなぎ止める存在”であるとともに、世界に関わる重要な鍵の一部であったということか。


でも奥さんは「制御装置」ではないよな。


手帳にはこうあった。

《時計は鍵であり、制限装置》

《彼女が選ばなければ、扉は開かない》


これは奥さんの名前が刻まれている=奥さんが鍵

では終わらない。

時計は「装置」、名前は「基準点」

選ぶのは奥さんだったが、今はminori(=サーヤ)に変わっている。

なぜ“名前”なのか、偶然じゃない。

考えられるのは、奥さんが特に強大な存在だった。

世界が次の強力な“錨に適した条件”を探した

もしくは、ボルト爺さんが、無意識に“次の錨”を選んだ

名前はただのラベルじゃなくて、「役割を引き継げる資質」その象徴。


だから、サーヤ=奥さんの代替ではなくて、

サーヤ=奥さんと同じ“役割を持てる可能性”

という位置か。


残留者の女(戦場ナース)の立場は?

彼女は、転生に失敗した Type C

錨を失ったまま“外側”に残った


だからこそ、錨を持つ者を羨むあるいは憎む

錨を奪えば戻れるか進めると思っている

「minori」を知っている=錨の条件を知っている

不安定な観測点に時々現れることができた


彼女には致命的に欠けているものがある。

それは 選択権。


彼女はできるならば、

戻りたい、書き換えたい、連れ戻したい

でも世界に対して「選ぶ」立場じゃない


奥さんが鍵か?選ぶ立場か?

本当の鍵は「同じ名前を持ち、選べる存在」

つまり、

•奥さんは「最初の鍵」

•サーヤは「次の鍵」

•時計は「鍵穴であり、ブレーキ」

•世界は「勝手には開かない」


ボルト爺さんは

奥さんを失ったあとも、

•世界を壊そうとしなかった

•書き換えようとしなかった

•誰かを無理に戻そうとしなかった


その代わりに、未来に“選べる人”を残した


それが

時計であり

名前であり

五段目という入り口で、「預ける」という行為。

だから今のサーヤの立ち位置は、はっきりしてる。

•連れ戻される存在じゃない

•観測されるだけの存在でもない


“次にどうするかを決める人”か。



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