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第八章 scene8 隠し部屋

カフェに飛び込む。


久しぶりのカフェの中は、朝の匂いがした。

火を入れる前の静けさ。

金属と木と、昨日の残り香。


サーヤは、迷わずカウンターの奥へ回る。


「……五段目」


引き出しを引く。


がらり。

中にあるのは、調理器具。

使い込まれたナイフ、計量匙、木べら、焦げ跡の残る小鍋。


「……ない」


一瞬、胸がざわつく。


でも、サーヤは止まらなかった。

引き出しの底ではなく、奥を見る。


(……浅い)


他の引き出しより、わずかに。

ほんの指一本分。


サーヤは、手を奥へ差し入れた。


――指先に、木の継ぎ目。


「……はめ板?」


爪をかけると、かすかに、外れる感触。

板を外した瞬間、中に現れたのは――

丸く、正確にくり抜かれた空間。


「……これ」


サーヤは、懐中時計を取り出す。

掌の中で、ずしりと重い。


ゆっくりと、その形に合わせて、はめ込む。


カチ。

音は、小さかった。

でも――


その直後。


ゴト……

低く、何かが動く音。


カウンターの奥、

棚と壁の境目が、わずかに沈む。


「……え?」


次の瞬間。


スゥ、と隠し扉が開いた。

空気が変わる。

ひんやりとした、奥の空気。


レオンが、息を呑む。

「……やっぱりか」


テッドが、目を見開く。

「なにこれ……店だぞ?」


クルスは、すぐに周囲を確認する。

「外からは見えないな」

「完全に死角だ」


扉の向こうは、狭い階段だった。


下へ、下へ。

灯りはない。

でも、奥から微かに、反射するものがある。


サーヤは、一歩踏み出した。

(……ボルト爺さん)


時計は、まだはまったまま。

扉は、閉じない。


「行くぞ」

レオンが、低く言う。


サーヤ、レオン、テッド、クルス。

四人で、奥へ入る。


隠し扉が、静かに、背後で閉じた。

――外の市場の音が、完全に消える。


そこに残ったのは、石の床と、古い紙の匂い。


そして。

壁一面に並んだ、引き出しと棚。


書類。

地図。

見たことのない記号。

そして、正面の机。


その上に、ひとつの古い木箱。

レオンが、ぽつりと言った。


「……ここが」

「ボルトさんの“裏”か」


サーヤは、喉を鳴らした。


(ここまで用意して)

(それでも、何も言わなかったんだ……)


机の上に、一枚の紙が置かれている。

見慣れた、あの字。


サーヤは、震える指で拾い上げた。

――ボルト爺さんの筆跡。


そこには、短く、こう書かれていた。


「来たな、みのり」

「ここから先は、お前の番だ」


サーヤは、息を吸った。

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