第八章 scene4 駒
サーヤは、カップを両手で包んだまま言った。
「ねぇ」
二人の顔を見る。
「その依頼主さ――
次の港に、絶対いるよね」
派手マントが、ぴくっと眉を動かす。
青年は、何も言わない。
サーヤは続ける。
「待ち構えてる」
「時計を持ってるかどうか、確認しに」
一拍。
サーヤの声は、静かだけど揺れていない。
「このまま港に着いたら、
あんたたちも“無事じゃ済まない”と思う」
派手マント
「脅してる?」
サーヤ
「忠告」
青年が、低く息を吐く。
「……理由を聞いていいか」
サーヤは、懐中時計をテーブルの上に置いた。
カチ、と小さな音。
「これ、ただの思い出の品じゃない」
「依頼主は、“中身がある”ことを知ってた」
「しかも、あんたたちが失敗したことも、
織り込み済みかもしれない」
派手マントが舌打ちする。
「……チッ。
確かに、“取り返せなかったら次を考える”
みたいな言い方してたな」
青年
「俺たちが捕まる可能性も?」
サーヤ
「ある」「もしくは――」
少し言葉を選んでから。
「“消される”かも」
船内の空気が、ひんやりする。
遠くで、船員の足音。
誰かの笑い声。
でも、この席だけ切り取られたみたいに静かだ。
派手マントが、髪をかき上げる。
「……最悪だな」
青年は、サーヤをじっと見た。
「じゃあ、あんたはどうする」
サーヤは即答した。
「逃げる」
二人
「……」
サーヤ
「港には降りる」
「でも、“正面”からは行かない」
「この船、
貨物の積み替えで一度、裏の桟橋に回るでしょ」
青年の目が、わずかに見開かれる。
「……知ってるのか」
サーヤ
「さっき、船員さんが話してるの聞いた」
派手マント
「耳いいな、おい」
サーヤは、二人を見る。
「一人でも行く」
「でも――」
一瞬、間を置く。
「正直、あんたたちも一緒のほうがいい」
派手マント
「理由は?」
サーヤ
「街勘がある」
「人混みの抜け方も知ってる」
「それに――」
少しだけ、視線を落としてから。
「もう、ここまで一緒に走った」
青年が、ふっと笑った。
「……逃げるか」
派手マント
「は?」
青年
「依頼主に会えば、俺たちはどのみち駒だ」
「だったら――
この子の賭けに乗る」
派手マントは、しばらく黙っていたが、
やがて、肩をすくめた。
「……あーもう」
「俺、こういうの嫌いなんだけどな」
サーヤを見る。
「なぁ」
「一緒に逃げるってことはさ」
にやっと笑う。
「しばらく同行決定ってことだぞ?」
サーヤも、ほんの少し笑った。
「……そうなるね」
青年が立ち上がる。
「じゃあ、決まりだ」
「次の港では――3人で消える」
船は、低く汽笛を鳴らした。
次の寄港地が、もう闇の向こうに近づいてくる。
逃げるための旅が、いま、正式に始まった。
サーヤは、ココアを一口飲んでから、
さらっと言った。
サーヤ
「ところで、その派手なマント――
そろそろやめない?」
一瞬、沈黙。
青年が、先に視線を逸らして吹き出す。
「ふっ!……あぁ正直、俺も目立ちすぎだと思ってた」
派手マント
「裏切り者かよ!」




