第七章 scene13 温泉反省会
夜の湯殿。
昼とは違う静けさが降りている。
湯気はやわらかく灯りをぼかし、
ぱしゃん……と水音だけが響く。
ルカ
「…………あぁぁぁ……しあわせ……」
肩まで浸かったルカが、溶ける。
サーヤも沈む。
サーヤ
「………………言葉いらない幸せ……これだよね」
しばらく、
ほんとうにただ湯の音だけの時間。
ふいにルカが笑う。
ルカ
「ねぇ、サーヤ」
サーヤ
「ん?」
ルカ
「……なんかさ」
肩まで沈んで、天井を見上げて言う。
「いろいろ、あったねぇ」
サーヤ、笑う。
サーヤ
「ほんとだよ。
最初ここ来た時なんて――
“仕事ください!”って言いながら息切れてた」
ルカ
「覚えてる覚えてる!
“働けます! 掃除も料理もやれます!”って
ちょっと必死な目してたもん」
サーヤ
「言わないで……(沈)」
ルカ
「でもね」
横目でサーヤを見る。
「あ、来てくれたらいいなって思ったよ。
たぶんあの瞬間、わたし、確信してた」
サーヤ
「何を?」
ルカ
「この子、うちの宿を変えるって」
照れる。
湯より熱い。
サーヤ
「……それはフィーリング採用ね、女将に怒られるやつ」
ルカ
「今回は間違ってなかった!」
指を数えだす。
「湯上がりの一杯」
「おやすみスペース」
「外気浴」
「あ、あとカビ取りとか」
「それに――」
ルカ
「お土産」
湯気がふわりと揺れる。
サーヤは少しだけ目を伏せる。
サーヤ
「わたしひとりじゃ、絶対できなかったよ」
「女将さんがいて、料理長がいて」
「ルカが引っ張ってくれて」
少し笑う。
「ここにいていいんだ!って思えたんだよ」
ルカ
「うん、わたしもいてくれて嬉しい!」
サーヤ
「……それ、めちゃくちゃ嬉しいやつ」
また少しだけ沈黙。
でも今度は、胸の奥がぽかぽかする沈黙。
ルカが湯の表面を指で、すいっとなぞる。
ルカ
「ねぇサーヤ」
サーヤ
「なに?」
ルカ
「楽しいね。
いま、すごく楽しいね」
サーヤ
「…………うん」
静かに、強くうなずく。
「楽しい」
温泉の湯気が、ふたりの笑顔を優しく包む。
笑い合ったり、
しょうもない話をしたり、
未来の話を少ししたり。
外の夜は静かだけど――
この瞬間、
ふたりは確かに“いまを生きている”って感じてた。
ルカ
「ねぇ」
サーヤ
「ん?」
ルカ
「明日も頑張ろうね」
サーヤ
「もちろん」




