第一章 scene9 お掃除大作戦第2弾?
夕暮れ。
仕込みと昼営業を終えたハルトが、重たい足取りで帰ってきた。
ガチャ――。
扉が開いた瞬間、彼は一歩目で止まった。
「……え?」
思わず漏れた声は、情けないくらい素で。
床が見える。
机に積まれていた物が、なくなっている。
動線が空いてる。窓から風が入って、家が心地いい。
「……お、おぉ……?」
靴を脱ぐのも忘れ、ハルトはその場を見渡した。
空気が違う。重さが取れている。ただ掃除されただけじゃない気がする。
サーヤが隅で、洗った布を干していた。
振り返り、少しだけ照れた顔で笑う。
「――おかえり、父さん」
その言葉が、胸に刺さった。
いつぶりだろう。
家の中が明るく感じるのは。
「……すげぇな」
サーヤは肩をすくめる。
「ちょっと、片づけただけだよ」
ちょっと、の規模じゃない。でも、言わない。
言いたい言葉が多すぎて、まとまらないから。
ハルトは、ぽつりと呟いた。
「……ありがとな」
サーヤは、ふっとだけ照れたように笑った。
少しの沈黙。
サーヤは、横目で父を見た。
「ねえ、父さん」
「ん?」
「――お店も、きれいにしない?」
ハルトは瞬きをした。
店。
戦場みたいな厨房。
散らかった客席。
仕事場。
家より先に、壊れ始めていた場所。
胸の奥が小さく揺れた。
「……できるのか?」
試すようじゃない。
頼るようでもない。
ただ、“一緒にやろうよ”って声だった。
サーヤは力強く頷く。
「うん。やろう、一緒に」
その言葉が、背中を支えた。
ハルトは照れくさそうに笑い、頭をがしがし掻いた。
「じゃあ……明日、休憩明けから少しずつやるか」
「うん!」
夕焼けが差し込む家の中で。
壊れかけていた家族に、小さな灯りが――またひとつ灯った。




