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どうして勇者と呼ばれたのか  作者: 乙川せつ


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六章 断章 竜殺しの英雄

 その男、龍との因縁を歩む者。


 白銀の大剣を背負い、龍の気配を撒き散らす修羅の男。銀髪が良くも悪くも目立ち、多くの因縁を吹っ掛けられる苦労人。

 

「オレは、一人で暮らしたい」


 かつてともに旅した仲間たちと別れ、英雄ジークフリートは一人、洞窟の中で暮らしていた。


腹が減れば森で獣を狩り、それでいて鍛錬を怠ったことはない。また、誰かが助けを求めるかもしれないから。自分が勇者ではないことは自分が一番良く分かっている。だからこそ、その男は剣を振るう。


「オレが、勇者まで道を繋ぐ」


 真なる勇者が生まれ、魔王を討つその日まで。英雄は人間たちを守る戦士となった。


「…………来たか」


 その気配を察知し、ジークフリートは洞窟から出る。外にて待ち構えていたのは、「赤龍」。


「オレの血に呼ばれたのだろう? さぁ、かかってこい」


『ガァアアアあああああああああああああ!!!!』


 英雄、ジークフリートと龍族の因縁は、数年前まで遡る。


かつて、帝国では聖教騎士団テンプル・ナイツという勢力が戦の頂点に立っていた。ジークフリートはその騎士団長。歴代最強と呼ばれ、大剣であらゆる敵を駆逐してきた現代の英雄が、この男だった。


 しかし、帝国は一匹のドラゴンによって滅ぼされた。


名を、【邪龍王アグドメルド】。魔王が自ら生み出した魔竜にして、真龍。その力は、国を滅ぼすことを朝飯前と言わんばかりの強大さであった。


 ジークフリートはその龍とたった一人で戦った。


それでも、勝てない。いや、そのままでは勝てなかった。圧倒的に力の差、それを覆すためにジークフリートがとった行動は、捕食。


 文字通り、斬った龍の肉を自らに取り入れたのだ。


 それにより龍の力を手に入れたジークフリートは、オリジナルをも上回る回復能力を発揮。その力を最大限生かした持久戦にて辛くも勝利した。


しかし、帝国は滅んだ。


 事の顛末を知った王国は英雄ジークフリートを《勇者》として任命するが、彼はそれを辞退。勇者の国である王国、その王によって認められた戦士は《剣聖》を除けばジークフリート唯一人である。


「オレは勇者にはなれない。国を守るのが勇者のなら、オレはその義務を果たせなかった。騎士としても、オレの忠義は打ち砕かれたのだから」


「しかし英雄ジークフリートよ、お主以上の実力者が他にいるのか? お主と剣聖、二人の英雄をもってすれば、魔王とて討伐できよう」


「それだけでは、駄目なのだ」


「ほう。では、何が足らぬと言うのか」


「もし、オレたちが魔王を倒したとして……残った魔族や魔物はどうなる。国境線を一気に攻めてくるぞ。それほどトップが殺された怒りというものは大きく、重い」


「それで? 何が必要だと?」


「希望が」


「希望…それこそお主で充分ではないのか? お主の力で道を切り開けば、いずれ希望も生まれてこよう」


「確かに、オレの生み出せる希望もあるのだろう。ただそれは、人を戦場に駆り立てる希望だ。願望、大義、宿命、恩恵、羨望、憧憬……勇者の資格とは、『人を戦わせない希望』だと、オレは思う」


「戦わせない……それは、一人で戦う者、ということか?」


「ああ。だがオレにはその力も、意志も、勇気もない。だからオレでは無理なのだ。待て、王よ。いつかきっと、真の勇者が現れる」


「……そうするとしよう。では、英雄よ……その時まで、人類を……頼む」


「ああ」


 時は戻り――――――。


「消えろ」


『グァァアア……?』


 英雄ジークフリートは、己の中にある龍の因子で、龍を引き付けていた。他の人間に被害が及ばぬように、龍を狩り続けている。


 魔物、魔族の中で特に強さで秀でたドラゴンを、たった一人で狩る英雄。


 ジークフリートは、確かに勇者であった。


「いつ現れるのだろうか、勇者は」


 その言葉に世界が答えるのも、そう遠い話ではない。

次回からは夜八時に投稿します。

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