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どうして勇者と呼ばれたのか  作者: 乙川せつ


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五章 天才

 ソイツは、突如として俺の前に現れた。

誰だと? アイツが誰だと? ――――勇者になる男だ。


「やあ、よろしく」


「…………」


 差し出された手を握る。社交辞令というやつだ、俺に友など今まで出来たことがない。今回もきっとそうなるだろう。

 しかし、奴は学院で俺とともに過ごした。何故、そう聞くと決まって『友達だろ』と返ってくる。それが不思議と嫌ではなかった……今の今まで、気が許せる友人などいなかったのだから。


 俺―――メルド・アーノルドは天才だ。赤子の頃から魔法が使えたし、今も新しい魔法理論を発表し続けている。そんな俺を貴族共は利用したがるし、親は俺を自慢する……平民だからな。


「よかったよ、同じ平民出身がいてくれて」


「…………ああ」



 その言葉が、とても嬉しかった。今まで散々、『平民なんて勿体ない』『貴族なら』『ウチに生まれてくれば』と言われ、俺は俺という人間に自信が持てなくなっていた。


 みんなが欲しいのは俺ではなく、俺の《魔法の才》なのだと、自分の力を恨んだこともある。


「………俺も、お前が来てくれて良かったよ」


 アイツがこの学院に来て数ヶ月が経った頃、俺達は互いに信頼できる親友になっていた。というより、俺が依存していた部分もある。


「凄いな、また学年一位……やっぱメルドは天才なのかな?」


「そんなことはない。知識の差など経験で埋められるだろう、だから実戦では俺はお前に勝てない」


「そう言ってくれると嬉しいけど……僕は全力が出せないんだから、君とどっこいどっこいだよ」


 そう、コイツは全力が出せない。


全力に耐える武装が無いのだ。いや、剣だけは耐えられるだろうが、鎧や服は一撃で粉砕される。だから学院の誰もがコイツの全霊を見ていない。無論、俺もだ。


 故にある程度の力しか出せないコイツは、中途半端な愚か者として馬鹿にされてきた。俺は何度も思った、コイツはお前らより強いんだ。

 何も知らないのに勝手なことを言うな、ずっとその言葉を抑えている。


「大丈夫だよ、メルド。僕は負けやしない、誰かに笑われても……僕は満面の笑みで返してやるんだ」


 その時『ああ、俺は馬鹿なんだ』と思った。


 俺が勝手に、無駄に怒りを募らせていただけ。それでも、アイツは笑った。笑ってくれた。


 ある日、俺達の卒業試験が行われた。それは筆記などではなく、一対一の真剣勝負。


「君は僕の親友なんだ、だからこそ……僕は君に勝つよ」


「それは俺も同じだ。負けるつもりはない」


「始め!」


「轟け雷鳴、響くは祝福の声。無銘より鍛えられし雷轟の書架、ここに掛けられるは我が宿命!」


 それは俺が最も信頼する雷の魔法。


「ライトニングボルト!」


 威力のわりに詠唱が短いのが特長で、同じ魔法師クラスでこの魔法を破った生徒はいない。剣士クラスでも「剣王」以外なら瞬殺できるレベルだ。


……いや、コイツも無理か。


「火よ、我が腕より来たれ。ファイアボルト」


やっぱりソレを使ってくるよな。最も信頼する高速魔法を!


 初めてこれを見たときは驚愕したよ、あまりの発動速度と―――魔術基盤に。


 通常、魔法というものは発動した部位―――この場合は腕―――から放出され、敵もしくは障害物に当たるまで、もしくは当たった後も光線のように繋がっている。

 それは魔法発動後の操作、追尾のために必ず術式に組み込まれているものなのだ。だが、この【ファイアボルト】だけは例外だった。


 文字通り火球…炎を投擲する魔法なのだ。


ボールを作るだけなら【ファイアーボール】でいいが、あれは腕で維持して直接ぶつけなければならない近接用の魔法だ。


 アイツは、自分の劣っている部分を補うために―――新しい魔法と魔術基盤の理論をゼロから生み出した。


 アイツが俺たち魔法師に劣っている点、それは「魔力の絶対総量」。それは生まれた時から増えることはない。故に、魔法師はほぼ才能で運命が決まるのだ。


 だが、アイツは諦めなかった。


 魔法の火力ではなく継戦能力を重視し、少ない魔力で使える魔法を自分の努力で生み出した。俺とて無論魔法をいくつも生み出したが、それは現代魔法理論の延長線上にあるものだ。アイツのように新しい魔法とも言えない魔法を生み出したことはない。


「お前は凄いよ」


「ありがとう」


 木剣の一撃を、俺は甘んじて受け入れた。


 その後、奴は騎士に誘われたらしい。だが、更に後の話は伝わってこなかった。

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