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どうして勇者と呼ばれたのか  作者: 乙川せつ


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三章 鍛冶師

 鍛冶師とは、戦士の生死を背負う職である。

 

 だから、私たちは仕事に妥協してはいけない。その僅かな妥協で人を助けられるなら、何度でも鎚を振るうのだ。


 いつも通りの仕事を終えた休憩時間に、彼は来た。


「すいませーん」


「いらっしゃい! フォース武具店へようこそ!」


 何度も繰り返した接待を行い、その少年にこの店を説明する。一族代々の相伝だということ、王国随一の品質を誇ることを。


「今日は買いに来たんじゃなくて、これの修繕を頼みたいんだけど」


「修繕ですね、それではお預かりします!」


 少年が差し出した剣――規格は片手直剣、特に目立つところはない―――よく使いこまれていて、作り手の腕が高いことも分かる。

 

 それに、これほどの鋼が今の世にもあることが驚きだ。


 魔王軍に鉄鋼採掘場を略奪されたことで、鍛冶に回ってくる鋼の純度が格段に低くなった。恐らくこの剣は侵攻以前に鍛えられた前世代の武具なのだろう。


「少々お時間を頂きますが、よろしいでしょうか?」


「かまわないよ」


「畏まりました。それではゆっくりお待ちください」


 ◇◇◇


「さーて、久々の大仕事だぞ!」


 最近の剣は殆どがすぐに壊れるような急増品だったが、この剣はそうではない。研磨だけでもかなりの時間がかかるだろう。


「……」


 鍛冶師は剣の魂を読み取る仕事。


使い手がどんな使い方をしてきたか、作り手がどんな気持ちで作ったのか。それらを感覚で写し、刀身に落とし込んでいく。

 形を変えず、そのままの剣らしさを表す。


「…………っ!」


 また、見えた。


「あんた、剣の化身ね」


『……』


 私が見ているのは剣の内部に宿る《魂の化身》。見えるようになったのは最近で、師匠おやじが言うには匠への第一歩ということらしい。

 今回見えるのは《雷神》のような魂……一度王都で見たことがある壁画の神だ。厳つい顔と筋肉が目立つ魂。


「すごい……」


 剣の魂は経験上、使用者の戦いが積み重なって鍛えられたものだと推測できる。だから、化身は騎士や人間のような姿をしたものがほとんど。

 しかしこの雷神は人型ではあるが凡剣を遥かに上回る強さを持っていた。


「……いったい、どんな姿になりたいの?」


『……』


 答えない。ただ、何となく伝わってきたのは、『強くなりたい』という感情。持ち主に負けない強さが欲しい、あの子を自分が守るんだという気持ち。


 それなら私が出来ることは一つだけ……その思いを形にすること。


「やってやるわ。……ちょっと痛むわよ!」


 熱し、鎚を振り下ろし、冷やし、また熱して、叩いて、冷やす。それを何度も、何度も繰り返す。鍛冶師に出来ることはこの一連の作業のみ。だからこそ、この一回一回に命を懸ける。


「ふっ! はぁ! せい!」


 掛け声とともに全身全霊の力を引き出す。一族に伝わる全ての技術を、この剣に注ぎ込むのだ。


 何故だかそれが、一番大切なことだと思えた。


「………できたぁ……」


 形状が大きく変化したわけでもない。少し長さが変化しているが、それも彼に合わせた微調整だ。それでも少年にとって、手に吸い付くような感覚のはずだ。


「す、すごいよ……ありがとう! お代はこれで大丈夫?」


「ええ、確かに。……毎度!」


「ありがとう~!」


 武具店から走り去っていく少年の背中を見て、少しだけ寂しさが湧いてくる。会ったのは数時間前、話した回数は十もないだろう。ただ、それでも……。


「…………こちらこそ」


 届かぬ感謝が溢れてきた。


「勇者ってやつなのかね」

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