二章 受付嬢
この国の冒険者は年々減っている。何故か?
理由は簡単、魔物が強くなっているからだ。魔王の降臨によって魔物のレベルそのものが底上げされているため、ベテランでもすぐに死んでしまう。
新人の志願者も同様に増えてはいるが、やはり死亡者の方が圧倒的に多い。
「皆様、本日も頑張ってくださいね」
冒険者の生き様と死に様に最も近い職業に私は就いている。王都にある冒険者組合、その受付嬢だ。
受付嬢は可憐でなくてはならない。
「ユナちゃん! おれこの依頼受けるよ!」
「ありがとうございます。こちらで手続きは済ませておきますので、出立の準備をお願いします」
「うん! ユナちゃんのためにおれ、頑張るから!」
「はい、頑張ってくださいね」
受付嬢は冒険者を鼓舞しなくてはならない。
「ユナたん……おで、冒険者やめるべきなのかな」
「そんなことはありません!」
「でも……近頃魔物が強くなってきて、おで自信ないんだ……死ぬのが、こわい」
「大丈夫です。怖いときは私を思い浮かべて下さい、離れてても応援しますから!」
「ユナたん……!」
受付嬢は冒険者を戦場に駆り立てなければならない。
「…………これ、死亡届です」
「受領します」
騎士団もしくは警備隊から渡される死亡届で顔を歪めてはいけない。
「うっ、うっ……うぁあっ……!」
「ユナ! 大丈夫かい、ゆっくり呼吸して……落ち着きな。アンタのせいじゃない」
「先輩……私……私……」
「こういう仕事なんだ、冒険者たちも覚悟して戦ってんだよ。それを背負い込むのは傲慢ってやつさ」
「……先輩……ありがとうございます……落ち着きました」
受付嬢は、冒険者に涙を見せてはいけない。
「すいません、冒険者の登録をしたいんですけど」
「ぁ……申し訳ありません。冒険者志望の方ですね、こちらの用紙の質問にお答えください」
「わかりました」
……若い。今までに見てきた冒険者の誰よりも。
14~15歳といったところだろうが、彼も冒険という名の地獄に身を堕とすつもりなのだろうか。それとも知らずに……夢の職業とでも思っているのだろうか。
私が普段相手にする冒険者たちは例外なく年上だ。しかし、そのほとんどが一年も経たずに消えていく。他の地域に移ったなら良い、だが……そうではないのが大部分を占める。
「終わりました」
「拝見します」
予想通り年齢は15歳。出身は国境付近の小さな村、そして戦術欄では戦士に丸が付いていた。私もそれは何となく分かっていた、が。
戦士にしては細い。
前衛の戦士は通常、高いフィジカルと身体能力が求められる役割だ。盾持ちにしろアタッカーにしろ、それは揺るがない。
ところが、少年の身体は魔法使いと思えるほど細い。正確に言えば中肉中背で、平凡な体格といえるだろう。
そんな彼が冒険者として成功する未来を、私はイメージできなかった。
その予想に反して、彼は多くの魔物を討伐してきた。魔物討伐の確認は対象の「魔石」で行われるため不正は不可能で、魔石の山は彼の強さをそのまま表している。
「……貴方は、どうして冒険者になったのですか?」
個室で会う機会があり、その時に少年に聞いた。何故戦うのか、その理由が知りたかった。
「……守りたいから……かな」
「守る、とは? まさか、見知らぬ誰かのために戦うとでも?」
「そうだね。僕の戦う理由はそれで充分だ」
呆れた。心底呆れた。
人は己の利益がない面倒を酷く拒む。それが見ず知らずの誰かなら尚更だ。それなのに少年は笑って言い切ってみせた。
自分はその面倒を引き受ける、と。
「じゃあ、貴方は……貴方には、何が残るというのですか?」
「残る?」
「その報酬は? 富と名声ですか?」
「富も名声も本質ではないよ。僕は、人の笑顔を見る為に剣を振るんだ。大切なこと以外で、剣なんて握りたくもないからね」
「…………」
ああ、こんな人が勇者になるのかな。
この少年は狂っている。笑顔が何だというのだろう、見たからなんだというのだろう。そんなもの、何の足しにもならないはずなのに。
けど……その笑顔で、胸が温かくなった自分がいた。
【受付嬢は冒険者に好意を抱いてはならない】
そんな「絶対」を破ってまで、彼を心の支えにする自分に呆れてしまう。
――――――だけど、私の思いが彼に届くことはなかった。




