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どうして勇者と呼ばれたのか  作者: 乙川せつ


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20/20

外典 辺境の騎士(後)

 王女の命令からすぐ、防衛部隊が編成された。


 最小限の兵を王都に残し、他の部隊は全軍出撃する。


「さぁ、行くぞ勇者ども!」


『オォォ――――――ッ!!!!』


 王女はカリスマだった。彼女の言葉で兵たちは奮起し、実力以上の力を発揮する。


だが。


それでも、どうしようもないことがあるのだ。


いくら凡人たちが努力しようと、選ばれし者にしか解決できない状況。それが、勇者がいない状況で起こってしまった。


「なんだよ、これ……」


 兵の一人がそう呟いた。


村は壊滅し、家屋は崩壊。人の気配が感じられない。


騎士には、どうすることも出来なかった。


「嘘だろ……みんな……誰か、誰かいないのか! 返事をしてくれ!」


 無論、避難したという可能性もある。


いや、あった。


「ぁ……」


あの少女の死体を見つけるまでは。


「ぁ……ぁああああ……ッ!」


『きっとなれるよ! 勇者! 頑張ってね!』


『すごーい努力してる。きっと報われるよ!』


『神様だって、貴方を見てるから!』


 おぼろげに蘇る記憶の数々。


 彼女の声が騎士の頭で木霊する。以前、王女に「何故」を問われた時……恥ずかしくて言えなかったこと。


 少年は、少女に報いるために騎士になった。


絶望に打ちひしがれる騎士に、一人の兵士が近寄る。


「行きましょう、騎士様。これは、弔い合戦です」


「…………そうだな。すまない、往こう」


 涙を振り払い、騎士は剣と盾を構える。


森の奥から出てきたのは魔物の軍勢。兵力は拮抗、もしくは魔物優勢。


どうでもいい。数なんぞどうでも。


「全部、叩き斬る!」


「ゆけ、我が騎士たちよ! 穢れた者どもを討ち払え!!!!」


(ああ、殿下は優しいなぁ……涙、拭いてくださいよ)


 王女は涙を流していた。いや、元々涙もろいのだ。


側近の絶望を感じ取り、自身の哀しみに変換する。その感受性こそ、彼女の特性であった。


 カリスマの所以でもある――――のかもしれない。


「うぉおおおお――――――っ!!!!」



結果、魔物の軍勢を押し返すことには成功した。


だが、あまりにも多くの血が流れた。出撃した軍の半数近くが死亡、もしくは重症の状態。


 王女自身も戦い、大怪我を負った。


「王女、殿下……!」


 騎士は治療テントへと運ばれた主の元へ向かう。


そして、絶句した。


 彼女の顔――正確にはその両眼が、多量の出血を起こしていたから。


「…………おぉ、お前か……すまんな、今……目が見えないのだ……安心せよ、すぐに、治る……」


 そんな筈がない。


 彼女の両眼は完全に切り裂かれ、眼球そのものが抉られていた。これでは回復のしようがない。あの魔法は人間の再生能力の範疇で、その速度を加速させる魔法だ。


故に、失ったものは再生できない。精々、失った臓器の補助が限度となる。


「殿下ぁ……!」


「声が、泣いておるぞ……お前は、我らは、勝った……勇者もいない状況で、この程度の損害なのだ……安いものだろう……」


「安い……そんなわけがないでしょう殿下! 貴方の瞳は私たちを導いたんだ、貴方には、その責任があるでしょうが!」


「…………」


「貴方には、その未来を見る責任が、あるでしょう……‼」


「…………だが、もうどうしようもないのだ。我の目は、もう……」


「あぁ、クソ……クソぉ……!」


 その時、奇跡が芽吹いた。


「…………⁉」


「お、王女殿下……お腹が、光っております!」


「なんだと……コレは、力が、湧いてくる……?」


 その光は腹部を駆け上り、彼女の瞳へと到達した。


「お、ぁ……ああああああああああ!」


「殿下ぁ‼」


 光が止むと、王女は立ち上がった。


「で、殿下、お身体に触ります! それに、今の光が……」


「よい」


「し、しかし……」


「よいのだ……身体が、すこぶる調子のよい……それに、傷も……目も、見える……光が、我を……」


「ま、まことですか⁉ 光が、見えておられる……⁉」


「何事です⁉」


 光を見た医者たちが急いでテントに入ってきた。


 そこで検査を行っても、王女の身体に異変はなく健康そのものだった。


「いったい、何が……おや?」


「どうした」


「探知魔法に何かが引っ掛かりました……これは、まさか……」


「なんだ、どうしたというのだ!」


「…………胎児……」


「なに?」


「妊娠されております」


「なんと⁉」


 本来ならめでたい事……だが、今の状況で言われてもどう喜んで良いものか。騎士はそう思った。


「殿下、光は下腹部から発生したのですか?」


「ああ、そう感じた」


「では、お子様のお力でしょう。魔王誕生の予兆でしょうが、それに対抗する力を持った王族がこの方である……そう考えられます」


「…………」


「そうか……ありがとう、我が子……お陰で、未来が見える」



 ◇◇◇



「…………帰還するぞ!」


「殿下」


「なんだ、まだ何かあるのか?」


「私は、ここに残ります」


「…………何だと?」


「この故郷の復興を見守ります。そして、魔物の侵攻を食い止めます」


「お前一人で、何ができる。今回のことで分かっただろう? この戦いは、一人で終わるものではない」


「それでも、繋ぐことはできます」


「繋ぐだと? いったい何を」


「希望を」


 騎士の目に、迷いはなかった。


「私が守ります。私は、騎士ですから」


 勇者になれなかった男は、それでも勇気を持っていた。なけなしの欠片を振り絞って、その命を懸ける覚悟を決めた。


「………もう良い。お前から近衛の位を剝奪する、その代わり、この地の守護者に任じる」


「…………はっ!」


 そして、騎士は守護者となった。



「きしさまー?」


「おぉ、どうした? 何か用でもあるのかい?」


「はい、これー」


「花……?」


 森で何度か見かけた、桃色の花。名前は知らないが、かなり珍しい種類のはずだ。


「これを、私に?」


「いつも守ってくれるおれー!」


「…………ありがとう。これで私は頑張れる……あと、もうお家に帰りなさい」


「なんでー? まだおひさまたかいよー」


「危ないからさ。それと、村長に言ってくれるかい。『来た』と」


「わかったーじゃあね、きしさまー。またあしたー」


「ああ、じゃあね」


 幼女が去った後、騎士は剣と盾を構えた。


「さぁ、お仕事の時間か」


 魔王軍の侵攻。それが十数年ぶりに行われた。


「かかってこい、魔物ども――――――!」



 ◇◇◇



「どうしたのです、勇者アルス」


「いや、これ……」


 魔王城攻略作戦。魔王城への道のりで、勇者がそれを見つけた。


騎士の、白骨化した死体だ。


鎧が骨を守り、原形を遺したまま座っている。大木に寄りかかり、死に様を想像させる。


「この方が、あの……?」


「姫様?」


「……いえ、何でもありません」


 そういいながらも、シルヴィア姫は手を合わせ、祈った。


黙祷。


 戦士たちは姫に倣い、祈りをそれぞれの形で捧げる。



「ありがとう。貴方のお陰で人間が生き残った」



勇者の言葉に、騎士の魂が笑った。


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