エピローグ
英雄譚は終わりを告げた。
ここから始まるのは、一人の男――――アルス・ヴァーグの物語。
ルークでも、ウィルでも、レオンでも、ディンでも、テトでもない。
勇者だった男の人生が幕を開ける。
◇◇◇
「でも、王様って何したらいいの?」
「えっと……」
正直なところ、僕にそんな知識はなかった。
だから手取り足取り教えてもらうしかなかったのだが、これが中々に強烈だ。
「も、もう勘弁して……!」
「まだまだですよ、あと教本が三冊ありますからね」
「うぅ」
アリス、女王様とか思ってごめんよ。
こっちが本物の、本当の意味でも女王様だった……。
「アルス、今他の女性を思い浮かべましたか?」
「え、いやっ」
嘘だろ、破邪の加護ってこんなこともできるのか。
これって本当にアリスみたい――――――。
「女の勘です」
「マジか」
思わずそんな言葉が漏れてしまうくらいには、女性という存在に感嘆した。
逆らわないようにしよう。
「おわったぁ!」
「はい、今日の分はこれでおしまいです。
よく頑張りましたね、アルス」
こうやっていつも褒めてくれる。
それが嬉しくて、毎日諦められないのだ。
これでシルヴィアが酷い性格なら、初日で逃げていたのにな。
「みっちりしごかれたらしいな、アルス」
「…………メルド!」
今日は久しぶりにメルドが会いに来てくれた。
村での出来事以来だから……三か月ぶりかな?
「どうなんだよ、教育の出来は」
「ようやく形になってきたというところでしょうか。
元が平民、しかも戦闘民族なのでもうしばらくかかりそうですが」
「戦闘民族って」
流石に酷くないか。
僕だって戦いだけじゃなかったんだぞー。
「まあ、戦いの方が多かったけど」
「確かになぁ、なあアルス。
今日は、お前に頼みがあって来たんだ」
「頼み? どうしたんだい」
メルドの瞳に真剣さが宿り、僕の目を真っ直ぐ捉える。
そして、口を開くと。
「俺に、お前の物語を書かせてくれ」
「…………物語⁉」
「物語というと、英雄譚や冒険譚でしょうか。
しかし、貴方は魔法師であり作家ではありません。そういうことは本職に任せては?」
「たしかに、その方がいいのかもしれない。
でも……俺はお前の友として、対等な視線で書きたいんだ!」
「メルド…………」
僕自身の英雄譚。
童話や御伽噺の存在に、僕がなる……実感はない。
でも、そうなることは分かっていた。
勇者は、後世に伝えられるものだから。
「…………僕の物語は長く、憂鬱なものだ。
それでも君は、描きたいと思うかい?」
「ああ」
意思は変わらないらしい。なら、任せてみよう。
「分かった、君に託すよ」
「アルス……!」
「いいのですか?」
「だって、これ以上の適任者はいないだろう?
メルドは僕の、親友なのだから」
「…………そうですね、貴方がそう言うのなら」
「二人とも、ありがとう!」
それから物事はテンポよく進んだ。
でも、ちょっと怖いこともあったね。僕とシルヴィアの結婚式の時なんだけど――――――。
「あらあら、お二人ともお似合いですわね~」
「ありがとうございます聖女様?」
シルヴィアとアリスが対面した時、空間が歪んだ。
もうバチバチと音を立てて。
「まったくアルス様ったら、こんなに綺麗な方を放置してたんですかー?
私と一緒に過ごすより大切なことなんじゃないですかぁー?」
「ちょっ、アリス」
「やれやれですね。聖女様は私の旦那を奪うおつもりで?」
「いやいやそんなことありませんよー。ただ、私の勇者様に興味があるだけでーす」
「…………」
「…………」
怖。
ほんとに、どうしてこうなった?。
まあ……いい式にはなったかな。
沢山の人が来てくれたよ。
母さん含めた村の人達、アルタイル、ジークフリートさん、メルド、アリス、ユナ……他にも、旅で出会ってきた大勢の方々が。
「みんな、ありがとう!」
「ばーか、それは俺達の台詞だぜ。親友?
世界を救ったのはお前なんだ…………ありがとう、勇者アルス!」
「…………へへっ」
メルドの言葉で、自分が誇らしくなった。
こんな気分は久しぶりだ。
「今日は宴だ、みんな…………飲むぞぉーっ!」
『おぉー!』
楽しい時間だった。
みんなが笑い、泣き、喜ぶ瞬間――――――。
「ったく、お前は一人で背負いすぎなんだよぉ」
「そうれすよアルス~。すこしはたよっへくらさ~い」
「シルヴィア、メルド…………飲みすぎはよくないよ…………」
王族がそれでいいのか、というツッコミは置いといて。
「まあ、それがカッコいいんですけどねぇ」
「ああ…………だな」
「そう面と向かって言われると、恥ずかしいね」
「俺から言えることは一つだがなぁ…………おめでとう!」
「よろしくね、アルス」
「………ふっ」
だが、そこに介入する声が一つ。
『よくやりましたね、勇者アルス。私は嬉しい』
(…………女神…………)
『ああ、やはり私の選択に』
(僕にはもう、用はないはずだ)
『いいえ、まだです。私は貴方の魂を回収しなければなりません。
勇者の役目は、もう終わりました』
(…………そうか。なら、早くしてくれ。悲しむ顔は見たくない)
『随分と素直ですね。ですが、良い心掛けです』
(考えていたさ。僕の役目を創ったのは貴女だ…………つまり、終わりを告げるのも貴女だと)
『ふふっ、それでは行きましょうか』
(…………)
『なにも恐れることはありません、貴方は私とともに永遠の楽園で過ごすのですから』
(…………貴女と、か)
《待った》
『…………⁉ 何故、貴方たちが……!』
「なんで…………」
そこにいたのは、かつての勇者たち。
霊体のまま、現世へと降りてきたのだろう。
『何のつもりです、勇者たち!』
《なに、簡単なことさ》
《我々は未来の芽を摘ませたくないだけなのだよ》
《さぁ、私たちの想いを受け止められるかな?》
『な、何をする! やめ、やめろ…………!』
僕には、目の前で何が起きているのか分からなかった。
でも、死ぬことは無くなったらしい。
女神が消えたのだから。
《ようやく、邪神が消えたようだな》
(邪神…………⁉)
《アイツは人間と魔族を創造し、互いに争わせた元凶…………つまり今までの戦いは全て、女神にとっての暇つぶしだったんだよ》
(暇、つぶし…………?)
アレが、あんなものが…………?
《理に触れ、ようやく突き止めた。
そして、アイツが現界するこのタイミングを狙っていた…………これでもう、魔王と勇者が生まれることはない筈だ》
(…………っ)
《ありがとう、最後の勇者よ。
我々は、君のお陰で解放される。今度は、普通の人間として――――――》
《君も、これからは人間として生きるのだ。
頑張れよ、アルス》
「――――――はい」
「アルス? どうかしましたか」
「…………いや、何でもないよ。ただ………応援されただけ」
「………?」
「シルヴィア」
「はいっ?」
「ありがとう。大好きだ」
「……………………今言いますか?」
まったく、と顔を赤らめて笑う彼女に、僕は恋をする。
これまでも、これからも。
何度、生まれ変わったとしても。
僕は、僕という魂で生きていく。それだけが、僕が僕であるという証明だ。
勇者だったアルスという少年は、この日―――――一人の男になった。
◇◇◇
やれやれ、親友の話長すぎだろ。
まとめるコッチの身にもなれってんだ。まあ、言い出したのは俺なんだが。
結論から言えば、俺が本を書くことになった。
出版するとき俺の名前で売り出す方が都合よく進むらしい。作者の知名度が関わるとかなんとか。
大魔導士だとか、賢者だとか言われてきたことに意味があるのは嬉しいことだ。
さて、内容に関してだが……。
まず行ったのは、勇者としての軌跡と旅路を聞き出し、そこで関わったと思われる人間全てに取材を行った。
無論、書籍化する際に削ったエピソードなんかもあるが。
取材する際、かなりの人数が泣いたんだよな。それだけアイツが死んだことにショックを受けたのだろう。ただ、何故かアイツは女性に好感を抱かれやすいようだ。
お陰で王女と聖女の取材は難航した。
一緒のところでしようとしたら喧嘩しだすんだぞ?
恐怖しか湧かなかったわ。
「…………あ」
タイトルが決まってなかったな。
さて、どうするか――――――――――――。
勇者英雄物語……違う。
アルス戦記……違う。
ウィリアーム伝説……違う。
最後の勇者……違う。
勇者と王女……違う。
中々いいものは浮かばないものだな。これは長くかかりそうだ。
『彼は絶対に諦めない。だからこそ、我々は彼を勇者と呼ぶのではありませんか?』
……これだ。
「アルス、お前の物語が完成したぞ」
「えっ、本当かい⁉」
「ああ、タイトルは――――――」
『どうして勇者と呼ばれたのか』
「どうして勇者と呼ばれたのか……これは、君たちの目線かな?」
「そうだ。俺達がどうして、お前のことを勇者と呼んだか……」
「どうして? 理由なんてあったのかい」
「まぁな。姫様の理由なら言えるぜ」
「えっ、シルヴィア?」
『カッコいいからですよ!』
「だとよ。鼓膜破れるかと思ったぜ」
「僕って顔は普通だと思うけど」
「そういうことじゃねぇよ。お前の行動、活躍、意志、精神……そういうもんのことだ」
「…………」
「物語の勇者ってのは、カッコいいもんだろ?」
「ははっ、確かにね」
◇◇◇
(どうして、か。
考えたこともなかったな……選ばれたから、じゃなかったのか。
でも、いい気分だ。)
「僕は、勇者と呼ばれた」
「アルスー、いますか?」
「シルヴィア?」
「やっぱりここに居ましたか」
「そりゃ自室だからね」
「メルドの書いた本、読みました?」
「うん、面白かったと思うよ」
僕が送ってきた人生より、物語らしい面白さが加えられていたけど。
「では、今度は私の話を……聞いてくれますか?」
「何をだい?」
「私が、貴方という人間を愛した理由を」
おわり。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。
作者の乙川せつと申します。
正直なところ、この作品に既存作のような面白味はないと感じていますがどうでしょうか?
皆様の心に少しでも刺さればよいのですが……。
書いてみたかったストーリーではあったのですが、やはり難しいですね。
辻褄合わせや伏線回収といった作業が本当に大変です。
一つお願いです。
低い点でも構いませんので、評価を頂けないでしょうか。
繰り返しになりますが、ここまでご覧いただきありがとうございました。
底辺の作者より。
――――――
追記。良し悪し関わらず、思ったことを感想に書いてくれたら嬉しいです。




