勇者の章 追憶Ⅵ
「…………また、か」
目覚めるとそこは、何もない草原。
そこが幻想なのか現実なのか、確かめる手段はない。でも、懐かしい気配がする。
「来たか、今代」
「やぁ、先輩」
背後に現れたのは、かつて村で見た【案内人】。
そして僕の先輩でもある。
「また、死んでしまったのだな…………」
「まぁね、でも収穫はあったよ。
魔族の最高戦力は知れた。後はあれを超えて、魔王を超えるだけさ」
そうだ、何度死んだって繰り返すんだ。
この果てしなき人生を。
いや、もう〝人〟と呼べるかも怪しいな。大切な人がいなければ僕は発狂していただろう。
魔王を倒すためだけに笑って戦う、最悪の狂戦士へと堕ちて。
「お前は、私たちのようになるなよ」
先代がそう言った。
そして、彼の背後に十数人の影が現れる。それはかつての勇者であり、人の理に刻まれた幻影。
「かつての私も勇者として戦い、そして転生を繰り返した。
だが、叶わなかった。魔王の魂は初代から永遠に輪廻転生を繰り返すのだから。
神は私たちを見捨て、新たな魂を見つけ出した。それがお前だ。
魔王と戦うために神が手を加えた魂………その証が、【勇者の紋章】」
そこにいる全員の右手が光を発する。
紋章は魔力光を放ち、それぞれが聖なる力を呼び起こす。
「この【呪い】は、魔王を完全に倒すことで解呪されるのだろう。
だから、私たちはお前に願いを託す。それでも、一番はお前だ。必ず、人間のままであれ。
そのために私たちの権能、能力、魔力の全てをお前に継承させる。戦闘経験もともに流れていく筈だ」
それこそが、勇者の強さ。
案内人とは、かつての勇者たち。
次代の勇者を導き、死後も世界を救うために魂を縛られる哀れな者たち。
「僕が、この地獄を終わらせる」
だから、僕が最後の勇者になる。
そのために、生きていくんだ。
たとえこの感情が、偽善だと罵られようとも。
勇者にはなれないのだと言われても。
人殺しと罵られようとも。
大切な人に恨まれようとも。人類すべてに憎まれようと。
「僕は進むよ」
そして、勇者の権能は一振りの剣へと宿った。
それは僕が全ての人生で使用してきた愛剣であり、【退魔の剣】へと至っていた父の遺品。
この剣は既に魔力、瘴気すら斬り払う力を持っていた。
勇者の力が注がれることによって、剣は新たな力と姿を得る。
「それが、お前の新たな剣…………想いの剣。〝想剣〟だ」
「想剣――――――」
「銘は、お前がつけろ。それは父の武器であり、お前の剣なのだから」
名前。
僕が、付ける名前。
何がいいだろう。そうだ、あの人の名前を貰おう。
僕が、愛した人。
「シルヴィア。想剣シルヴィア……それがこの剣の名前だ」
「想い人の名を付けるとは、中々に未練がましい由来だな」
「笑うかい?」
「いいや、笑うまい。
我らが未練によって生きる存在なのだから」
未練、か。
そんなもの、どれだけあるか分からない。
あの日、村から旅に出て…………もう十年は経っているだろうか。
そんなに経っていないのかもしれない、それ以上経っているかもしれない。
そう考えるだけで、名も無き虚無感が湧いてくる。
『何のために、此処にいるのか』
『何のために、剣を握るのか』
『どうして、諦めないのか』
『魔王を倒して、どうしたいのか』
『何故、勇者を名乗り続けるのか』
その意味と、答えを知るために………僕は生きてみる。
「ありがとう」
僕がそう言うと、勇者たちは笑った。
「礼を言うのは私たちの方だ。ありがとう、最後の勇者」
「君は確かに、真の意味で勇者なのだろう」
「神のセンスというのも頷ける。アイツは全知全能だ、輝きをもつ魂を的確に判断出来るのだろうな」
勇者たちはどこか嬉しそうに、悲しそうに言葉を発した。
まるで、これが最後だと言わんばかりに。
「進め。お前の行く先が、我ら勇者の到達点だ。
世界は無常、それは決して揺るがない。それでも、世界は希望に満ちているだろう。
可能性は最後までゼロではない、何とかなるさ!」
一番老けた顔の勇者が言った言葉に、全ての勇者が頷いた。
僕もそれに倣う。
「そうだね。最後まで抗ってみせるよ、泥臭く……勇者らしく、勇気を振り絞って」
『頑張れ!』
「――――――はい!」
そうして僕はもう数度、新しい人生を繰り返す。
何度も同じ草原で目覚め、送り出され。泣かれ、笑われ。
『頑張れ!』
何度も応援を受け、立ち上がった。
そして、最後の戦いに辿り着く。




