勇者の章 追憶Ⅴ
「失礼します」
「どうぞ」
彼女の自室を訪ね、顔を合わせる。
部屋に入ると、金色の髪が揺らいでいるのが目に入った。
「…………」
何だろう、すごく唖然としている。
僕に何かついているだろうか? どこか変なのだろうか?
「……ふっ」
彼女の顔が可笑しくて、この状況が不思議で……笑いを堪えられなかった。
「……何故笑っているのですか?」
「いやぁ、王族も驚くんだなって」
あまりにも立場が違うけれども、同じ人間なんだと実感した。
「僕は勇者レオンといいます、お見知りおきを」
「王女、シルヴィアです。勇者に敬語を求めるのもお門違いでしょうか?
素で構いませんよ」
「助かります」
正直なところ、貴族の雰囲気と空気が苦手だ。
「改めて、よろしく」
「ええ、こちらこそ」
こうして、僕たちは出会った。
◇◇◇
「勇者レオン、汝を近衛騎士に任ずる」
「はっ」
この日は僕が正式に騎士となった日。
王国最上級の兵、近衛騎士に任命された僕は王女殿下の護衛に就くことに。
「まさか貴方が騎士を引き受けるとは思いませんでしたよ。
貴方はいつも、一人ですから」
「殿下、それは傷つきます。僕だって一人が好きなわけじゃありませんよ?
僕の場合、味方が邪魔になることも多いんです」
「それでも、魔王と戦うためには軍とともに?」
「敵は魔王だけではありませんから。
魔族や魔物、それらの敵軍を倒すのに戦力は必要です」
「そうですね、私も力になれるように努力しましょう」
僕たちは笑えていた。
それでも、それを快く思わない人達もいたのだ。
「お前など勇者の器ではない」
「どうせ魔物に殺される」
「汚らわしい平民の分際で、殿下に触れるなど……」
予想通りではあった。
貴族はプライドの塊なのだから、平民の英雄を嫌う。分かっていたのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
どうしてこんなに、胸が痛いのだろう。
「ああ、くそ」
一人、自分の部屋で涙を流す。
もう、二度と泣かないと決めていた筈なのに……堪えられなかった。
「なんで、僕なんかがこんなことに……!」
僕は、神を恨む。
だが、憎めない。
僕がやらなければ、誰かがやる。
それだけは駄目だ。
この無限地獄は、僕だけが背負う。それで、充分なんだ。
「ああ、そうだ」
僕は、勇者なのだから。
「レオン、いますか?」
殿下? こんな時間帯に何だろうか?
「どうぞ」
「………………失礼します」
「――――――……⁉」
何故か、殿下は薄着だった。
もう、肌が見えてしまうような……踊り子が着るような、それだった。
「殿下っ、どうしてそんな恰好……っ」
「……少し、話しませんか?」
◇◇◇
「殿下と何かあったのか?」
「い、いや何も」
僕たちは、誰にも言えない秘密を抱えた。
◇◇◇
だが、その日常も突然終わることに。
「…………魔族!」
辺境の視察へ赴いた時、一人の魔族から襲撃を受けた。
紫の肌、緑の瞳が特徴の青年。
『私の名前はシャルナ。魔王軍の剣士だ』
「どうして、こんなところに…………!」
『どうして? 将来の障害は先に潰すものだろう』
「…………姫様、逃げてください。僕が時間を稼ぎます」
「レオン………貴方はどうするの…………?」
「大丈夫、必ず…………生きて帰るから。約束だ」
その約束を、僕は守れない。
何故か。
ここで死ぬからだ。魔族の青年は明らかに強い、僕より遥かに。
相打ちにも出来ないだろう、だからこそ戦う。殿下を守るために、時間を稼ぐ。
「そんな、レオン…………」
「いけっ、シルヴィア!」
「…………っ」
彼女が走り去るのを確認し、僕は剣を構える。
『――――――』
彼が言った言葉に、どこか納得した。
「勇者、レオン・ヴァリス。参る!」
そして、戦いは始まった。
『この程度か、勇者というものは』
「…………そうだね、まだ、この程度だ」
『次があると思っているのか?』
「いや、君が思う次は違うだろうね」
『…………』
《僕》の権能は、今まで発動したことがなかった。
「いくぞ、魔の者よ。最後の覚悟は済んだのか?」
『そんなもの、とっくに済んでいる』
権能が、目覚める。
『終わりだぁ‼』
死の一撃。それは寸分たがわず、僕の心臓を狙っている。
だが、僕にはそれが酷く…………ゆっくりに見えた。
「…………」
『防いだ⁉ 馬鹿な、そんな力残っているはずが……』
「舐めるなよ、魔族。僕は……勇者だ」
絶技
「比翼双連」
結果、僕は負けた。
それでも、【僕】は生きている。一歩、前に進む。
「繋げ、未来への希望を」
「…………久しぶりに見たなぁ、先輩」
次回、勇者と案内人。




