勇者の章 追憶Ⅱ
僕は剣聖アルタイルの推薦で勇者学院へ入学することが出来た。そこで、友が出来た。
彼の名はメルド。
僕と同じ平民出身でありながら、他を圧倒する魔法の才を持つ天才。
いつも一人で過ごしていた彼に話しかけてみると、そのまま意気投合。平民同士分かり合えるところがあったのだ。
そこで僕は彼に「攻撃魔法」の基礎を教えてもらうことに。今使える魔法は「ファイアボルト」だけだから、少しでも攻撃方法が増やせたらいいな。
「ウィル、お前が使いたい魔法は火属性でいいんだな?」
「そうだけど………何か問題でもあるのかい?」
「いや、大したことではない。魔法にも相性が合ってだな…………
魔法の威力にも関係することだから、ある程度お前の意思を聞きたかった」
なるほど、そういうことか。
確かにメルドの心配はもっともだ。水に適性があるのに火を学んでも中途半端にしかならない。それより水の攻撃魔法を習得する方が圧倒的に効率の良い。
でも、僕の場合は違う。
勇者の紋章のせいで、魔法の適性は全属性に適合しているのだから。
それに僕は剣も魔法も使う戦士だ、ある程度の火力さえあればいい。
火力より優先されるのは弾数。
その点、ファイアボルトは優秀だ。今の僕なら連続で20は撃てるだろう。
「えー、取り敢えずこの本読んどけ」
「うおっと」
投げ渡されたのは「火・炎魔法理論基本書」と書かれた分厚い本。わざわざ用意してくれたのだろうか。いや、お古だな。
明らかに使い古された痕跡がある、それでも嬉しいけど。
「ありがとう!」
「フンッ」
素直に感謝を伝えるとメルドはそっぽ向いてしまった。
「ふむふむ…………」
本の始まりは、僕に入ってきた。
『魔法とは、魔法使いの魂を写し取り、世界に転写する技術である。
届かん場所に手を伸ばすことであり、その先に神があるという進化の法。故に、信教とは仲が悪い。
さて、魔法は魔力によって発現する。
その使い方を貴殿に教えよう』
「お、おぉ………⁉」
本に吸い込まれるような感覚。
自分が、そこにいた。
『お前は誰だ?』
――――――…………僕は…………勇者だ
『魔法に何を望む?』
――――――希望を。魔法のその先に、みんなの笑顔があることを
『魔法とは?』
――――――強い力。僕なんかには似合わない、勇気の炎
『魔力とは、どこから来る?』
――――――…………心から。僕のなけなしの勇気が振り絞る、ちっぽけな力
『もう一度問おう。魔法に何を求める?』
――――――…………希望を。
『それで?』
――――――僕が僕であれる力が欲しい
『ははっ、言えたじゃないか』
――――――…………僕は……
『僕だ』
「…………?」
眠っていたのか……。寝落ち何てみっともないなぁ。
「でも、何でだろう……内容、覚えてる」
◇◇◇
「メルド、読んだよ」
「何か変わったか?」
「分からない……でも、僕と話せたよ」
「どうやら上手くいったらしいな」
「?」
メルドによると、あの魔導書は自分と対話させ己の根源を教えるものらしい。
一度しか使えないものと言われ、流石に戸惑ったが。
「いいんだ、お前なら」
そう言われ、もう何も言えなかった。
「じゃあ、見せてみろ。お前の根源を」
「…………わかった」
学校の訓練場。そこで向かい合う僕たちは、それぞれの武器を構える。
「俺は障壁魔法を展開する。これを破ってみせろ」
「…………【ファイアボルト】」
「なっ……完全無詠唱⁉」
僕の腕からいつも通り火球が飛び出る。威力は変わらないが、詠唱も含めた発動速度は大幅に底上げされている。
これが、魔力の核心。
これが、僕の魔法。
「……なるほどな、飛躍するとは思っていたが、ここまでとは――――予想外だった」
「ありがとうメルド。これで僕は、まだ先に行ける」
そう、まだ先がある。
勇者とは?
剣と魔法を使いこなす戦士である。
そして、その二つを操る。
「……元々、考えてはいたんだ。でも、出来なかった」
「な、何のことを言ってるんだ?」
「でも、今……核心を見た今なら、出来ると思う。その確信もある」
「何をする気だ、ウィル……⁉」
「剣と魔法を、僕たちは別々に使ってきた。いや、使えなかった」
そう、勇者学院は剣士クラスと魔法師クラスに分かれている。
それは、効率が悪いから。
剣と魔法を完璧に収め、さらに大成した者はいない。たとえ勇者であっても、器用貧乏と言わざるを得ないのだ。
故に、この《考え》は本来あり得ないものではある。
でも、繰り返した先に見えたんだ。この景色が。
「ファイアボルト」
「なっ……!」
剣に魔法を撃ち込んだ。
「ウィル、それは……いったい……その魔法はいったい、何なんだ⁉」
「魔剣」
燃え盛る剣身。その姿は、まさに魔剣と呼ぶに相応しい。
魔力を過剰循環させ、炎を維持する剣技。
「ありがとう、メルド。僕はここまでこれた」
「…………!」
この日の夜、僕は秘密を打ち明けた。
「何だよ、それ……何でお前が、そんな目に合わなくちゃいけないんだ!!!!」
「それが運命なんだよ。僕は神に選ばれてしまった……それだけさ」
「なんで、お前は割り切ってんだよ! 恨めよ、世界を、神を……!」
「僕一人で済むんだ、むしろありがたいよ」
メルドの涙で、僕の胸が締め付けられた。
次回、聖女。




