勇者の章 追憶Ⅰ
僕は旅に出てすぐ、彼の元へ向かった。
「…………うん?」
彼は魔物の肉を食べていた。
そして、その状態で僕に気付いたのだ。人間誰しもが油断する食事中に。
「あの、剣聖様ですか?」
金髪に赤い瞳。百人に聞けば百人が美しいと答えるルックスの青年。
彼の名は、アルタイル・レアン・ヴァルノウド。
王国最強の剣士【剣聖】の名前を背負う者。
「君は……誰?」
肉を喰らいながらそう問われ、僕は答える。
「僕は、《テト》。勇者の使命を背負う者」
「…………君が?」
目踏みするような視線を感じる。
そしてすぐに、
「いったい勇者が何の用だい? 王に連れ戻すようにでも言われた?」
「言われましたけど……自分には出来ませんね」
「それは何故?」
「貴方は僕と同じで、あまり人の前で戦いたくないんでしょう? そして、大きすぎる期待を背負うことを恐れている。
失敗を恐れて。いや、貴方に関しては失敗したことがないからですね。
だから、そのツケが最悪の事態で現れることに恐怖を抱いている」
「驚いたな、そんなことまで分かるのか。君には心が読めるのかい?」
「…………さぁ、どうでしょうね。もしかしたら、誰かに聞いたのかもしれませんよ」
「それはないよ。誰にも言っていないからね」
渇いた笑い。
彼も僕と同じように、重すぎる運命を背負っているのだろう。
それを比べることも、ましてや聞き出すことも出来ない。僕は、臆病なんだ。
「君も食べる?」
「あ、いただきます」
ここに来るまで何も食べていなかったから結構お腹が空いていた。故に、ありがたく頂くことにしよう。
というか、魔物の肉って食べて大丈夫だっけ?
「君みたいな対魔力に強い人なら大丈夫だよ、ちゃんと消化できる」
「あ、そうなんですね」
よかった、普通は毒らしいからね。
ここまで来て魔物食を食べたから死亡とかシャレにならない。
今回はもう少し進めるといいんだけど。
「おぉ、うまい……!」
脂がのってて肉汁が凄い。豚肉よりこっちの方が好きかも。
ただ……お腹壊しそうだなぁ。魔力とかじゃなく、脂で。
「いつもこんな食事なんですか?」
「ああ。でも、今夜は特別さ……何故か最上級豚人が一匹孤立していてね。
丁度いいから狩らせてもらったんだよ。
いつもなら銀狼とか、猛毒巨大蛇みたいな中級種を食べてるよ」
……規格外だ。
銀狼はフェンリルの子どもで、小さな街なら一匹で壊滅させられる。
猛毒巨大蛇は更に酷い。基本スペックが高いうえに猛毒は疫病となって次世代にまで届く被害となる凶悪獣だ。
それらを日常のように討伐して、食べてる?
――――――この人、やっぱりおかしい。
「どうかした?」
「い、いえっ」
絶対に起こらせないようにしよう。
僕はそう固く誓った。
「勇者、か……辛いだろう? 役目ってやつは」
「…………そうですね。正直、どうして自分なのかと思います。でも、他の人がやるよりはいい」
「どうしてだい? 君はなりたくないんだろう?」
「確かに僕は勇者に何てなりたくありませんでした。でも、旅をして気付いたんです。
それを見知らぬ他の人に押し付けていいのかって。
選ばれたなら、選んだなら、僕は最後までやろうと思います」
「そうか……君は、強いなぁ」
剣聖の顔が綻んだ。
というより、こっちが彼の素顔なのだろう。優しい笑みは、農民のような……普通の印象を見せた。
「そうだ、すっかり忘れてた……君、何しに来たの?」
「あっ」
◇◇◇
当初の目的である修行は出来なかったが、代わりに学院への推薦をしてもらえることになった。
勇者学院は国中から才能が集まり、未来の英雄が育つ場所。
「また会おう、勇者」
ええ、生きていたら。
この人生でもう一度会えたなら、その時は笑い合いましょう。




