#82.ミルダと魔導戦鎚
今回はミルダ視点です。
◇◇【Side:ミルダ】城壁外──
「見えた! あんたらはデカいスライムの“核影”を落としな! 怪我人を一人でも多く引っこ抜くんだよ! アイツは──あたしが相手する!」
先頭で駆けながら、腹の底から声を張る。よく通る低音が戦場のざわめきを裂いた。第三大隊は一斉に散開。前列は楔形で最濃部へ突っ込み、核を牽制。後列は引き剥がしと救出、搬送へ。誰も迷わない──あたしの号令は、手下どもの身体が先に覚えてる。
救出班は大楯と鉤縄で触手を縫い止め、刃に油と灰を塗って粘液の再凝集を抑えながら切断。制圧班は槍で“核”を牽制して動きを鈍らせ、杭打ちで地面に縫いつける。ぱちり──紫電が走るたび、粘体が痙攣し、隊員の胴や腕がずるりと解放される。誰かが泣き笑いで「息してる!」と叫んだ。
さっきまで第二大隊を呑み続けていた巨体は、取り込んだ兵を栄養みたいに中央核へ流し込みながら、さらに大きな個体へ寄り合っていく。
「姐さん! 一番デカいのは俺らじゃ無理だ! 槍が核まで届かねぇ!」
城壁と並ぶ高さ。手下の悲鳴まじりの報告に、あたしは即答だ。
「泣き言いってんじゃないよ! 外から削ってりゃいつか届く! 第四大隊を待ちな! 風で吹き飛ばしてくれる! それまでデカくさせないように、アタシらで抑える! ──できるね!」
上空の脅威はもうない。いまは第二大隊の救出援護とベルゼビュートの撃破に集中だ。第三大隊が先行、第四の到着で掃討。第五は壁上交代。人馬とも摩耗した第一は予備。
『ミルダ、いいですか。あいつの大鎌、“起こし”が半拍短い。回転が上がる前に芯を外すのを忘れないで』
キースの念話が落ちる。
『私たちの到着まで耐えればいい。決して無茶はするな』
あの相棒は昔から、あたしの気性をよく知ってる。
『言われなくても分かってるよ、相棒。──なぁ、“ミョルニル”』
視界の端に、赤褐色の全身鎧が甘い匂いでも嗅いだみたいに顎を上げる。右手の大鎌は悲鳴で研いだのかってくらい、よく回る。ヤな音だ。……でも、あたしの相棒はもっといい音を出す。
『さぁ、やろうか』
◇◇
踏み込み二歩、土が砕けて星みたいに背へ散る。魔導鎧の推進回路が脚の伸びに加速を乗せ、肩の内側で雷素がふつふつ沸く。胸の奥の怒りに、ちゃんと火がついた合図。
「あらあら、今度は貴女がお相手? 意気のいいお嬢さん。面白そうな武器ね。私の大鎌と、どっちが強いかしら?」
「はン、力比べなら望むところさ! これでもくらいな!」
正面からぶん回す──わざと大振り、わざと一本調子。見せ球だ。案の定、魔族はふわりと跳ね退く。
「馬鹿ね。そんな大振り、当たらないわ」
「かかったね!」
柄頭に雷を落とす。戦鎚の両端が紫炎を吐き、慣性輪が逆位相で噛む。振り切った遠心を更に押し出し、あたしはそのまま手を離した。ミョルニルは空気を裂き、唄うみたいに回転しながら追尾する。
目の高さ、胸元へ──ズドン。
魔族は大鎌を盾にして受けた。だが、受け切れない。骨がきしむ手応えが、空気ごと伝わる。
「ぐっ……!」
いい音。大鎌の回転位相が崩れる。左足を半歩、胸郭を締めてもう一発、雷。弧を描いた戦鎚は背の磁芯に引かれて戻り、返りの衝撃をそのまま腰で受けて回転へ繋ぐ。
砂煙を引く紫の尾。ベルゼビュートの足元で蛇腹の影が跳ねる。今ので肩関節の可動域が鈍った。──起こし、確かに“半拍”遅れる。この半拍が、生死の境目。
「へぇ、驚いたわ」赤褐色の仮面が笑う。「投げて戻るオモチャ。可愛い」
「驚いたかい? “魔導戦鎚ミョルニル”。これがアタシの喧嘩だよ」
戦鎚の腹で土を叩く。紫電が肩から肘、手首へと抜け、握りが手に馴染む。周囲では第三大隊が触手を杭で止め、鉤で裂き、仲間を一人、また一人と引っこ抜いていく。誰も死なせない。ここは、うちらの戦場だ。──さぁ、もう一丁。
◇◇◇
【更新予定】
明日も17:30更新!
【次回】#83『閑話——“魔導戦士” とその “師匠”』
——明かされるミルダとミレッタの過去。そして、幻の秘境で待つ星詠みとの出会い。
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