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シミュラクル!〜サブ垢に転生した俺は何度でも『強くてニューゲーム』する〜  作者: やご八郎


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#79.近づく影

 ◇◇◇【Side:ラッシュ】城壁外・第二大隊陣地前縁──


 ──ズドォォォォン……。


 ラッシュが前縁で敵影の殲滅状況を見極めていた時、背後から土を反転させるような爆鳴が腹の底を揺らした。反射で肩をすくめ、右腕で頭部を庇う。遅れて襲う熱風に、砂と焼けた藁の匂いが混ざっている。


(後方か──最悪の箇所だ)


 踵を返して駆け戻る。整然と並べた防護柵は根元から薙がれ、杭は抜け、縄は弾け飛び、数日を費やした応急陣地は判別不能な瓦礫の丘と化していた。地面は裂け、そこから噴く白い蒸気が膜になって視界を奪う。音はある。悲鳴、呻き、魔導鎧が石に擦れる嫌な摩擦音……しかし目が届かぬ。


「霧が晴れるまで無闇な攻撃は控えよ! 総員、各自の持ち場にて防御を固め、次の一撃に備え!」


 声は出る。だが返事が、ない。


(……やられたな)


 ⦅強化視⦆で虹彩の奥を冷たく締め、濃霧の粒子を押し分けるように周囲を走査する。見えたものは、兵が見たいものではない。爆圧で地に叩きつけられ、四肢が不自然な角度で折れ曲がる者。抜けた杭や破片に貫かれ、鎧ごと抉られた者。直接の爆心から外れていても、噴出した高温の風で露出部を焼かれ、息をするだけで肺が悲鳴を上げている者。……半数以上が戦闘継続不能だ。


(密集配置が裏目に出たか。まずは態勢だ)


『キース、こちらラッシュ。先程の爆発で第二大隊の大半が戦闘続行不能。撤収も困難だ。至急救援を──』


 ……沈黙。砂を噛むようなザザッという耳障りな揺らぎが念話回線を覆い、声が沈む。


『キース……聞こえないのか?』


(この霧、阻害効果(ジャミング)……厄介だ)


 ならば目と脚で繋ぐしかない。ラッシュは最も信頼する直参の三人に短く命を下す。


「パース、ヴィムは傷の浅い者を集めよ。重傷者は霧に紛れてしばし安静、体力温存を徹底と伝えよ。ロイは霧の外へ出て本隊に救援要請、経路は最短で構わん。行け」


「「「っは!」」」


 三人の返答は澄んでいた。くぐもった世界に通る、頼れる音。彼らが散ったのを確認してから、私は身を低く保ち、爆心へ向け足を進める。敵の理屈に近づくには、まず痕跡を視るのが一番だ。


 ……足裏に、崩れた土の層が二重三重に重なる感触。表土ごと持ち上げられ、それから内側から吹き抜かれた跡。上からの直撃ではない。下だ。地霊(ちれい)を差し金にされたか、あるいはもっと悪い──“食う”側の知恵だ。


 やがて城壁直下。陣地最後尾、壁との境で地面が大きく口を開けていた。覗き込む。壁は健在。外装に焦げ、ひびはあるが、構造を絶つ傷はない。頼もしい一方で、理不尽でもある。


 ラッシュは思わず黒門を見遣る。獅子の意匠は、青黒い嫉焔を喉奥で燻らせている──見上げるだけで体温が一枚、剥がれる炎だ。


(この出力で、壁にほぼ被害なし……? なぜだ)


 思考の端に、城壁の祝詞と地脈の結び──黒門の影響圏──が浮かびかけた時、頭上から別の声が投げ込まれた。


「第二大隊ぃぃ〜〜!! 誰でもよい、聞こえんのか!? 聞こえたら応答せんか〜〜!!」


 ゴルドーの声だ。さっき死にかけていた男とは思えない響きに、ラッシュは苦笑しながら返す。


「ゴルドー殿! こちらラッシュ! 第二大隊は壊滅状態。至急救援を頼みたい!」


「ラッシュ!? 生きておるなら、なぜ念話に応答せんのじゃ! いまミルダが第三大隊を率いて向かっとる! 女王が突っ込んできたようじゃ! この霧では何処に潜んでおるか分からん! 気を抜くでないぞ!」


 盟友の気配に胸の強ばりが一枚剝がれる。だが、油断の余地はない。


「御忠告、感謝致す! この霧が念話を阻害していると思われる! 早目に風魔法で飛ばして頂けると助かる!」


「心得た! ギュスタヴに支援をもらう! しばらく待っとれ! それまで()られるでないぞ!」


「心得た」と応えかけ──


 ──ヒュン。


 首筋へ、熱のない刃が走った。背から伸びる、ひどく細い影。肌が先に気づき、体は勝手に前へ抜ける。


「ラッシュ! 後ろじゃ!」


 壁上からの叫びが追いかけてくる。ラッシュは前方へ低く滑り、同時に“土石弾”を一発、背後へ撃ち返す。指の形と詠唱を短く嚙み砕き、石英質の弾体を二重成形。敵の刃と衝突、火花。続けて、魔導鎧を《増幅》で底上げし、一回り重い弾体を叩き込む。


 ──ズドン。


 鈍い命中音。手応えはある。だが、止まらない。


 ザリ……ザリ……ザリ……ザリ……。


 固く重い何かを引き摺る音が、霧の奥でこちらへ一直線に寄って来る。音に混ざる、低い唸り。いや、唸りというより縒り合わせた呪言が、一定の拍で絡み合っている。耳に粘る。


(嫌悪……これは理屈ではなく警鐘だ)


 皮膚が泡立つ感覚を、呼吸で柔らげる。⦅強化視⦆の焦点を霧粒に合わせ、輪郭だけを拾う。


 ──ザリザリザリザリザリ……。


 霧の向こうの影が、ある距離で凍り付くように止まり、代わって乾いた足音が近づいた。カツ、カツ。踵の形が整っている。獣ではない。人形──いや、


 霧が一枚、風に梳かれた。


 そして、そこから姿を現した存在は、女のかたちをしていた。

【更新予定】

毎日20:00更新!


【次回】#80『美食の女王』

姿を現した魔族の騎士——彼女は自らを“美食の女王”と名乗った。


面白かったらブクマ&★評価、明日からの20:00更新の励みになります!

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